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2006年2月21日 (火)

『彼女を信じないでください』

『彼女を信じないでください』は、韓国映画にはまってから3か月目に出会った映画です。最近は、さすがに韓国映画といってもいつもおもしろいものに当たるわけではありません。たとえ評判がよくても、自分には合わない映画もあるからです。

例えば、割と好ましく見た『子猫をお願い』のペ・ドゥナが相当に気合いを入れて出演したとか評判の『吠える犬は噛まない』。最初の20分くらいはおとなしく見ていましたが、その後はどうにも嫌気がさして、DVDの手軽さ――早送りです。気になりそうなところだけ見てもうほとんどザッピング状態でした。そして、後半のマンションの屋上から犬を落とす?シーンを見た途端、もう後はいいや、とそこで見るのを打ち切りました。一部の評価は非常に高い映画のようですが、私には生理的に受け付けられないテーマだったということでしょう。

さて、そんな中この映画は久しぶりに最後まで落ちついて見られた映画でした。というか、最後まで落ちついて見られた映画ということは、私にとって合格の映画ということになります。

とにかくおもしろかった、というのがまず一言目の感想です。

女詐欺師の仮釈放中の出来事をおもしろおかしく見せて、そして最後にはちゃんと恋の成就が予感されています。終わり方も後味がよく、リフレッシュ効果は十分にあったように思います。先日、チョン・ジヒョン目当てで見た『四人の食卓』によって、すっかり後味の悪い思いをしていたところだったので、なおさらでした。そういう意味では、口直し効果もあるような気がします。傑作とまでは言えないにしろ、佳作とは言えそうな、そんな作品です。

ところで、この映画は『猟奇的な彼女』(感想はこちら)よりおもしろいと宣伝されていたそうです。しかし、最初に見ての感想では、おもしかったことは認めるけれど、さすがに「猟奇的」には勝てないなあ、というのが正直なところでした。それは、今でも変わりません。

とは言うものの見た翌日から、「もう一度見たい」という欲求が出てきたのには驚きでした。いつもツタヤで借りて見ていますが、ついにDVD、それもデラックス版を購入してしまいました。そしてなんと3夜連続で見てしまったのです(笑)。

なぜか。

結論から言うと、映画全体の雰囲気が実に温かい、その一点に集約できそうです。主役2人ももちろんよかったのですが、何しろ主役以外の脇役がものすごくいい、これに尽きるのではないでしょうか。

ここからネタばれありです。

 

認知症のおばあちゃん、いかにも家父長制にふさわしいヒチョル(カン・ドンウォン)の父、早とちりで人のいい妹などはもちろん、2人の叔父にあたる警官、タクシー運転手――この運転手の最初の登場シーンの顔は、ちょっと忘れられません。それくらいいやらしい顔でした(笑)。昔、山上達彦という漫画家の描いた『新喜劇思想体系』に、いつも和服を着たおかまが出てくるのですが、そのおかまの目にそっくりです。そして、その妻たち。さらに忘れる無かれ、近所のおばちゃんたちの面々。何回も見れば見るほど、みんな自然な演技で一人ひとりを見ていくだけでも飽きさせません。結果としてとても温かい田舎の人々が生まれていたのです。

面白かったのは、心ならずも仕方なしにつくはめになった彼女のうそにもかかわらず、次々とそれらのうそに真実味を与える偶然の出来事が重なっていったことです。例えば、病院で逃げ回っているうち、つい産婦人科の診察室に入ったばかりに、いつの間にか妊娠していることになってしまいました。そして、ヒチョルを囲んで車座になり、ことの真偽をわきまえようと一族で話し合うあのシーン。ここでは、ヨンジュ(キム・ハヌル)が初めてヨンガンの町に降り立ち、ヒチョルのことを尋ねた店のおばちゃんたちから聞いた話がうまい伏線として生きてきます。この辺のストーリーの運び方は、どたばた喜劇じみてはいるものの、なかなか巧妙な脚本力を感じさせました。キム・ハヌルの詐欺の演技も、もう少しで笑いそうで――事実、メイキングでは、「カット!」の声の後ゲラゲラ笑っていましたが、見ているわれわれも思わず噴き出してしまいます。

ということで、今回この映画で処女作メガホンを執ったペ・ヒョンジュン監督には大いに注目しました。監督はインタビューに答えて、こんなことを言っています。ストーリー展開の自然さをかなり意識してつくったとのこと――これは私の映画を見る際の最も重要なポイントです。そして、説明的なシーンはどんどん省いていったこと。この発言を聞いただけで、私の好みの監督であることを強く感じました。名前も例のペ・ヨンジュンに近いのですぐに覚えられます。今後の作品に注目したいものです。

主役の2人についても少し述べておきます。

キム・ハヌルについては、テレビドラマ『ハッピー・トゥギャザー』が初めてでした。そのときには、「何だか、青木さやかにちょっと似ているなあ」とか「あ、でも、全体的な雰囲気はテレビ朝日の大下アナウンサーにも似ているかも」などと感じていました。特別、演技力や容姿に興味を抱くことはなかったのですね。今回、興味を持って調べてみたら、『同い年の家庭教師』にも彼女が主演で出ていたことがわかりました。あの映画も見ましたが、私にはつまらなかったので余り印象に残っていなかったのです。つまり、この『彼女を信じないでください』を見るまではほとんど気にしたことのない女優さんでした。

本作では、彼女の本来持つ明るさというか、恐らく今まで出したくてもなかなか出せなかった彼女のノリのよさみたいなものが全面的に出し切れていたのではないかと思います。はじけたその姿の心地よさが、見る者にも十分伝わってきていました。中には、彼女のこの演技が大げさでわざとらしい、と感じる向きもいらっしゃるようですが、私には問題なく感じられました。コメディは、割にデフォルメした演技でも十分受け入れられるように思います。

ただし、カン・ドンウォンの演技には疑問がないでもありません。とくに家から薬局に追い出されたとき、訪ねていったヨンジュと話し合うシーンがあります。彼の表情は、さっき彼女のうそから追い出される羽目になったにも拘わらず、もう馴れ合った表情になっていました。そのうえ、なぜか彼は必要以上にやたらと目を剥くので不自然この上ありません。もう少し、あの場面ではヨンジュに悔しさや敵意を見せるくらいのほうが自然ではなかったかなあ、と思います。

とはいえ、彼の演技もまずまずと言っていいでしょう。特筆ものは、ヨンジュがヒチョルの妹スミに尋ねられてでっち上げた、想像上での2人の出会いのシーン。あのキザで気持ちの悪い男は傑作でした。とくに、最後に息を吹きかけるところ――こんな男はいないだろうという演出ですが、しかし嫌みなく演じられたのではないかと思います。また「Mr.唐辛子」の場面でも、いやいや出たのにヨンジュの演出に次第に乗せられ、すっかり調子こいた演技は、その素人っぽさを残しながらもだんだんその気になっていく様子がうまく演じられていたように思います。

最後にもう一度。この映画のよさは、やはり主人公の2人を取り巻くヨンガンという田舎の人々のつくり上げた雰囲気全体にあるのではないかと思います。

今後出るであろうキム・ハヌルの次の喜劇に、そしてもちろんペ・ヒョンジュン監督の次回作に大いに期待します。

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コメント

はじめまして!こんにちは。
TB&コメント、ありがとうございました(^^)
とても面白くて、心が温かくなる作品でしたね。キム・ハヌル作品を本作と「霊」「氷雨」と、続けて観ましたが、やっぱり彼女にはラブコメが一番ですね♪
それでは、またお邪魔させて下さいね!

投稿: | 2006年5月 6日 (土) 17:52

空さん、コメントありがとうございます。
「霊」ですか。うわさは何度か聞いていますが、ホラーはちょっと苦手ですので観ていませんし、まあ観ないでしょう(笑)。「氷雨」はそのうちにとは思っていますが……。
私は「同い年の家庭教師」や「ハッピー・トゥギャザー」、そして「リメンバー・ミー」などを観たのですが、やはりこの作品に優るものはなかったと感じています。
それでは、また。

投稿: たるぼっと | 2006年5月 6日 (土) 20:22

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» 「彼女を信じないでください」 [空の「一期一会」]
■いやぁ~面白かったです(^^)キム・ハヌルがこんなにも素敵な女優さんだったな [続きを読む]

受信: 2006年5月 6日 (土) 17:53

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