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2006年2月20日 (月)

『猟奇的な彼女』

caution :以下の記述は、めちゃくちゃネタばれしています。まだ、映画を見ていない人は読まないことをお薦めします。

『猟奇的な彼女』を見てから、遅ればせながらついに韓国映画にはまってしまいました。

いちばん初めに見たときには、まずあのゲロ吐きシーンにびっくり。すごい掴みをするなあと、あっけにとられつつすぐに引き込まれていきました。

そして、次々に繰り出されるシーンの連続。とにかく追いついてストーリーを理解することに集中していました。しかし――途中で、とてもだれてしまいました。

原因は、あの未来人の物語です。見ているこちらとしては、早く2人の関係の展開を続けてほしいのに、こんなくだらないシーンで時間をつぶすなよ、というのが正直な思いです。そのうえ、それに輪をかけたような彼女(チョン・ジヒョン)の誕生日のシーン、あれはなんでしょうか。花火を上げるつもりで遊園地に誘ったのはいいとしても、ずいぶん唐突に、しかもなぜかここに脱走兵がいるではありませんか。何でこんなシーンが必要なんだ? とちょっといらいらした記憶があります。

後半戦からは多少趣も変わったせいか、前半戦では一体何を考えているのかわからなかった彼女の――いや何であれほど男を殴りまくるのか一向にわからなかった彼女の背景に、なにやら悲しい出来事を暗示するような気配も出てきて、それなりにまた引き込まれていきました。

おもしろかったのは、見合いを強要された彼女が母への仕返しにキョヌ(チャ・テヒョン)とデートするシーン。彼女がノーパンで走り逃げるとき、靴を交換してハイヒールをはかされたキョヌが立ち尽くしています。そのとき彼女に浴びせられる言葉、「追いかけてこないとぶっ殺すよ」。これには思わず爆笑してしまいました。そういえば、ここの場面の音楽はレンタルDVD版のほうがよかったと思います。後で述べるディレクターズカット版DVDの音楽も悪くはなかったのですが、映画版のほうがよりマッチしている気がしました。

さて、あの山のシーンです。彼女が「ごめん、キョヌゥ~」と叫ぶやつ。これにはストーリー展開もさることながら、チョン・ジヒョンの演技力に圧倒されて思わずホロッとしたものです。

そして、この後の展開は一気呵成に収束します。

最後の叔母から紹介を受けるシーン、これには全く意表をつかれました。「ああ、あのおばさんの紹介したい人って、”彼女”だったのか」と。思わず絶句です。ハッピーエンドには違いないのだけど虚を突かれた分、ここでグーンと感動が高まったような気がします。そして、映画の冒頭にあんな伏線があったんだ、と感心することしきりでした。

                     …………………

最近、ディレクターズカット版のDVDが出たので購入して見てみました。

いやあ、なかなかこのクァク・ジェヨン監督、いろいろ考えてつくっているんだなあ、と。ディレクターズカット版(以下D版と言う)なので、20分ほど映画より長いのですが、その中にわれわれが想像でしか補えなかったあれこれがきっちり描写されていました。

例えば、彼女をホテルで介抱しているときにキョヌがしみじみ眺めるネックレス。これは、亡くなった彼氏からもらったもので、映画の最後のほうで湖にそれを投げ捨てるシーンが追加されているのですが、このシーンは残しておいてもよかったかもしれません。ただ、このネックレスにまつわる話にこだわると、もう1つ追加しなければならないシーンが出てきます。例の喫茶店での見合いの席にキョヌが同席する直前のシーンです。これはD版にしか入っていません。

彼女とつき合うためにしてはいけない「十戒」(と呼ぶそうです)を、キョヌが見合い相手の男に語るシーンがありますが、実はあの前に、キョヌは一たん彼女を喫茶店の外に連れ出します。そして、彼女に対する忠告をいわば「裏十戒」(つまり、お酒は3杯以上は飲むなとか)として語り、そこで少しネックレスの件にふれるのです。「見合いするときに、過去の男からもらったネックレスをしていくのは失礼だよ」と。ただ、ここのシーンは割に長いので、そこまで入れるとちょっと全体に冗長になりますから、恐らく入れなかったのでしょう。

その他のシーンはむしろなくて正解だった気がします。とくに糞尿回収車(日本でいうバキューム・カー)に、彼女の乗ったタクシーがぶつかるシーンなど、「ゲロに続いてまたかよ、きったねえなぁ」と思わず趣味の悪さに眉をしかめたものです。

だいたいこの監督は、やはり好きな作品の一つである『ラブストーリー』でも、牛のうんちに隠れる「フンコロガシ」を捕まえるシーンや、おならの演奏(これには笑いましたし、好きなシーンではありますが)や、検便のため道端で便をすくうシーンなど、どうも一種のスカトロ趣味があるようです。見る人によっては小首をかしげる人も多いと思うのですが、彼の美意識が高まれば高まるほど、ある意味でのバランス感覚からこういうものが必要になってくるのでしょうか。不思議です。

まあ、D版ではいろいろなことがわかりましたが、作品としてはやはり観客の想像力にゆだねる部分を多くした劇場映画版のほうがはるかにできがいいことがわかりました。

D版では監督のコメンタリーが付いていて、初めてわかったことがあります。あの山の木の下で彼女が会った老人は、未来のキョヌだったことです。というか、正確には「そういうふうに見てくれてもいい」と監督は言っていました。そういう可能性を考慮して、あの老人の唇を、できるだけチャ・テヒョンのそれに似せようと厚ぼったくメイクしたと言っています。だからこそ、最後の再会するシーンで「あなたの未来に会ったような気がするわ」という彼女のせりふが成立するわけです(このせりふはD版を見るまでは、何回聞いても意味がよくわかりませんでした)。

ついでにこれに関してもう1つ言うと、これは有名な話らしいですが、山の上でキョヌの手紙を読み終えた彼女の背後の上空には、1機のUFOが飛んでいます。私は、1回目に見たときには全く気づきませんでした。未来人キョヌ老人を運んだUFOなのでしょうか。

つまり、未来人がちょっぴり介入したかもしれない、そんな恋愛映画という側面もあったことになります。したがって未来人のシーンは、それなりに必然性を持っていたということになりそうです。まあ、何となく納得させられた気はしましたが、なんだかねえ。つじつまが合っているのはわかりましたが、やはり余計なシーンという気分は否めません。

もっとも、そうすると彼女と同じ誕生日の脱走兵との遭遇物語は一体何の伏線なのか。こういう疑問も出てきます。コメンタリーでは、残念ながらこの謎についての監督の説明はありませんでした。しかし、この監督のことですからきっと何か企むところがあったに違いありません。私には狙いがわからなかったのですが、どなたかわかる人がいれば教えていただきたいものです。

さて、いろいろと不満のシーンがあったにもかかわらず、それでもこの映画はおもしろかったのです。それは一体なぜでしょうか。

第一に、主人公の彼女の「猟奇性」――つまりものすごく変わっているキャラクターそのものにまず求められそうです。華奢で長い髪をなびかせる姿からはおよそ似つかわしくない、ゲロ吐き、3杯の酒で酔いつぶれる不用心さ、自分の思うようにいかないとすぐに「ぶっ殺す」とすごむ口癖、そして平気で男を殴る。おまけに、変に正義感ばかり強くてちょっと手に負えない感じです。

しかし、それらと後半「ごめんね、キョヌ~」のシーンに代表される彼女のせつない心情とのギャップ! これだけで、変な女だけど結構かわいいとこあるじゃん、と私は思ってしまったのですから、まあ監督からすれば思うつぼでしょう。

第二に、キョヌのキャラクターにも大きく負っているように思います。あのような猟奇性を持った彼女に対応できるのは、まずこのキョヌくらいしかなかったでしょう。そう思わせるに十分なキャラ立てでした。そして、最後の最後でキョヌのいとこが彼女の亡くなった恋人だったことがわかることによって、相性がいいのも当然だ、と妙に納得させられるのです。

第三に、これは監督によるものが大きいのですが、原作のインターネット小説(私はもちろん読んだことも調べたこともありませんが)の奇妙な2人の恋物語を、「偶然」というキーワードで展開して見せたところにありそうです。かの老人の言った「偶然とは努力した人間のみに与えられる架け橋である」とは監督のオリジナルだそうですが、このメッセージを伝える映画としたことによって、単なる恋物語に終わらせない独特の味わいと余韻を残す作品になったのではないでしょうか。

最後に、この映画の成功は監督はもちろんですが、チャ・テヒョンとチョン・ジヒョン、この2人が特にすばらしかったんだなあ、と思います。

殴られるシーンが多いのに余りそれを気にしないで見られたのは、チャ・テヒョンの殴られる演技がとてもいいからでしょう。なにやら漫画的というか喜劇的に殴られているので、あまり悲惨さが出てこないんだと思います。

そして、やはりチョン・ジヒョン、この人はすごい。キョヌを殴るときの彼女のあの大きく目を剥く表情は爆笑ものでしたが、全編を通じて思い切りのいい演技はいっそ通快でしたし、確かな演技力を感じさせました。実は後日見た『イルマーレ』(感想はこちら)で気が付いたのですが、声もすごく魅力的で、なかなか響きのいいアルトの持ち主です。すっかりファンになりました。彼女の出演映画は全部見るつもりです。

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コメント

韓国映画ツンデレ代表に輝いていいツンデレぶりでしたね。
しかしあの映画とあわせる案はハッピーエンドにうるさい私としてはいただけないわ!

※どの映画か書いたらネタバレちゃうと思ってあわててタイトルを消しました。

投稿: たこ麗子 | 2006年4月20日 (木) 15:52

あの映画って、恐らく私の『ラブストーリー』の感想の冒頭のところで、駄作と断じた映画のことかと思います。

麗子さんはハッピーエンドについて、私と同じ持論のようですね。イルマーレのときにちょっといろいろ拝見していたら確か「バッドエンド」は毎日のニュースでたくさん! みたいなこと言っておられましたよね。

私も実は同感です。やはり映画は原則ハッピーエンドでお願いしたいですよね。

投稿: たるぼっと | 2006年4月20日 (木) 20:42

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