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2007年11月 7日 (水)

『イルマーレ』(アメリカ・リメイク版)

『イルマーレ』(アメリカ・リメイク版/DVDレンタル)を観ました。韓国オリジナル版(私の感想はこちら)はなかなか情緒あふれる、しかも余韻がずっしりと残る名作だったのでリメイク版はかなり劣るだろうなぁ、という予見もあり、観る気が一向に湧かなかったのですが、だれかがとってもわかりやすかったという感想を漏らしているのを聞き、突如好奇心が湧いて先日観てみました。

さて、映画そのもののストーリーや役者の演技についてはいろいろなブログやその他で話題になっているようですから、その辺は多く語ろうと思いません。ただ一つ二つ述べさせてもらえるなら、ケイトのアパートの床からなぜ「説得」というケイトの父親の遺本が出てきたのか、これは終わってからもずっと謎でした。ネット上で「ケイトのアパートが出来る前にアレックスが忍び込んでかくしておいた」とかいろいろな説を読みましたが、どうしても不自然さは残りました。

もう一つ、リメイク版はオリジナルに比べてその場面がどの時空のものかを少し考えないといけないつくりになっていましたので2回くらい観ないとどっちがどっちか(2004年の出来事なのか2006年のものなのか)よくわかりませんでした。背景の色合いを少し変えるかして、その辺をもう少しわかりやすくしてもよかったのではないかと思います。

それはともかく今回見たら、またしてもこの映画の不思議な世界を改めて確認することとなりました。 私の韓国版の映画感想(こちら)の中で述べた第2時空世界をそのまま描き、そして最後にまた命を救うための手紙を投函して第3時空世界をもう一つつくり出し、ハッピーエンドを迎えるというストーリーとなっています。韓国版にあったわれわれを迷宮に誘う第4時空のエピソードは入っていませんでした。

おっと、いきなり第2時空とか言っても説明が必要ですね。韓国オリジナル版の復習も兼ねて簡単にこの用語の説明だけしておきます。

まずこれから述べることの大前提として、宇宙世界は一つでなく無数の世界があり得て、しかも並行して存在してよいという「並行宇宙」という考え方をベースにしています。それは想像できるかぎりの世界が並行してあり得る、という考え方らしく、もっとぶっ飛んだ言い方をするとどんな瞬間にも無数のパラレルワールドが分岐し得ることを許す世界の見方です。極端な例を言うといわゆるタイムパラドックスがない世界――現在の私が過去に戻って祖父を殺しても、いまの自分は消えない世界です。

(ここからネタバレ

具体的にこの考え方をこの映画に当てはめてみます。 まずレイクハウスの郵便受けが時空を越えてワープすることなどない、いわゆる普通の世界――今われわれがふだん感じている世界を第1時空世界とします。次に、郵便受けがワープした途端に分岐された世界を第2時空世界とするのです。すでにこれで2つの時空世界が並行しているというわけです。

念のために確認すると、第1時空世界ではイルマーレそのもののストーリーがあり得ません、郵便受けはワープしないのですから。しかし、ワープする郵便受けが存在した途端に第2時空世界が第1時空と並行して存在し始め、そこからこの物語が始まるというわけです。

映画では、この第2時空でアレックスは交通事故に遭いバレンタインデーに死んでしまいます。しかし、映画のラストにあるようにケイトの手紙を受け取り、間に合ってじっと2年間待つことにしたアレックスが現れる時空がもう一つ生まれていることに気づきます。この、2年後つまり2008年2月14日のレイクハウスでケイトと出会うアレックスのいる世界が第3時空世界です。この第3時空が生まれたおかげでこの物語はハッピーエンドとなりました。

こうたどってくると一見「めでたし、めでたし」の結果で、落着した気分になりますね。 しかし、しかし、果たしてそうなんでしょうか?

韓国オリジナル版の感想の最後にも書いたのですが、次のように考えたときにどうしても腑に落ちない――いくら「何でもあり」の並行宇宙といえども、これはあり得ないでしょう、ということに気づいて以来、ずっと私を悩ませるポイントがあります。

それは、こういうことです。

第3時空への分岐点は、第2時空のケイトが急いで「自分を捜さないで! 本当に愛しているなら、2年待って! そのとき私はレイクハウスにいるわ」という手紙を投函した時点にあるはずです。 並行宇宙の考え方からみると、このときケイトが郵便受けの中に入り込み(もちろんそんなことは不可能ですが、思考実験としてです)2006年の2月14日にワープしてアレックスを交通事故から救うということなら、一応許されるのではないかと思います。ただし、ケイトがそうしてつくった時空ではケイトが2人(ただし、2歳違い)いることになりますが……。

しかし、この映画のように第2時空ではすでにアレックスは死んでいます。その時空から手紙を届けて、アレックスを交通事故から救うことまでは許せるとしても、あの郵便受けの場面にアレックスを登場させることができるのか、というのが疑問なのです。レイクハウスで投函したばかりのケイトのいる時空はどちらでしょう? 第2時空のはずです。したがって、その時空ではすでにアレックスは死亡した事実が確定しているのです。

でも、郵便受けの中身がワープすることを許すことができるのですから、あの手紙が間に合ってアレックスが生き残る可能性だってあっていいはずです。2年間じっと我慢してもいいはずでしょう。しかし、あの手紙を投函した場面にアレックスは登場できるのでしょうか?

これが、最大の疑問です。

彼が現れるということは、彼が交通事故に遭わず、弟と一緒に設計事務所を経営している可能性が高いことになります。先ほど、その弟から兄、アレックスの死を聞いたばかりのケイトの前にどうしてアレックスがあらわれ得るのか、これが大問題だと思われるのです。

これは、ちょうど下り階段を降りって行ったらいつの間にか上り階段になっていたという例のエッシャーのだまし絵のような世界です。私は今回映画を見直して、ついにここに至り同じ矛盾の映画バージョンなのではないか、と考え始めています。事実、韓国版オリジナル映画のなかにはエッシャーの絵がことを暗示するかのようにそれとなく映し出されているシーンがあるのです。

逆の言い方をすると第3時空――つまりあのラストシーンでアレックスがケイトの前にあらわれることを成立させるためには、手紙が投函されてアレックスがそれにより助かった途端に、第2時空の記憶がケイト及びアレックスの関係者全員からなくなり、別の記憶ができていなければならないことになります。いくら並行宇宙でもそれはあり得ないのではないか……。そこがどうやらイルマーレの時空論的な問題提起だったようにも今思われるのです。 そして、それを解決して2人の恋を成就させるために韓国映画には例の第4時空のシーンが付け加えられた可能性があります。

この第4時空の話の前に、ここまでの話を整理してみます。

  ……………………………………………………………………………………

第1時空世界……イルマーレの話などまったくない世界。アレックスとケイトはまったく接点を持たず、したがって美しい恋物語はありません。

第2時空世界……郵便受けがワープしてアレックスとケイトが文通しあい恋が成立します。しかし、2006年のバレンタインデーにアレックスは交通事故死してしまう世界です。2008年のバレンタインデーにそれを知ったケイトは「会いに来るな」のメモを郵便受けに入れますが、それが間に合わなかった世界でもあります。

第3時空世界……ケイトは、2006年のバレンタインデーに自分を捜しに来たアレックスが交通事故に遭うことを知ったため、2008年のケイトが急いでレイクハウスの郵便受けに行き「絶対会いに来るな」というメッセージを残し、それが間に合う世界です。もちろん、その忠告を守るアレックスでなければいけません。それは交通事故を回避できた世界であり、2008年のバレンタインデーに2人はようやく出会うことができます(今や疑問符付きですが)。それがこの映画のラストシーンでした。  
                                                             ++++++++++++++++++++++++++++++++

おまけ。この映画の時系列メモです。いずれもケイトの時間で考えます。

2006年2月14日以前――ケイトがレイクハウスを引っ越す。文通開始。
2006年2月14日   ――アレックスが交通事故死。
2006年4月3日    ――2年前の写真から、季節はずれの春の雪をアレックスに手紙で連絡し、その確認がとれたことで郵便受けがワープすることを確信。
2006年10月6日ごろ――アレックスの父が2004月10月6日に死亡したことを死亡証明書を見て確認し、アレックスを慰める。 この後、レストラン「イルマーレ」で会う約束をするが、アレックスが来ないため、ケイトはこの恋の成就をあきらめ、モーガンとよりを戻す。

その後、1年半ほどケイトのアパートでモーガンと同棲してアレックスのことは忘れる。

2008月2月14日  ――モーガンと2人で暮らす家を改築するためにアレックスの弟の建築設計事務所を訪れ、ちょうど2年前アレックスが交通事故死したことを告げられる。

  ……………………………………………………………………………………

さて、ここまでのまとめを頭にいれたうえで韓国オリジナルのラストシーンをご紹介します。ちなみに韓国オリジナルでは郵便受けに祈るように投函したウンジュ(ケイト役)の前にソンヒョン(アレックス役)はあらわれません。というか、どうなるのかわからないまま曖昧にしてシーンは切り替えられます。

そして、最後に第4時空世界をつくり出しています。ここでは、アメリカ版の設定で説明しましょう。

レイクハウスからまさに引っ越そうとしているケイト(つまり映画の冒頭のシーン)にアレックスが会いに行くシーンです。そして、アレックスはあの犬の足跡の付いた橋のうえで「こんな奇妙な話を信じてもらえるだろうか」(韓国版のソンヒョンのせりふ)と言ってケイトに近づくのです。 これが、韓国オリジナル版のラストシーンです。

              ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

今、気づいたのですが、これが可能になるのは韓国オリジナル版では交通事故死するのが、2人が文通しだしてから約4か月後の出来事だったからです。ですから、アレックス(ソンヒョン)は引っ越そうとするケイト(ウンジュ)に会うことが可能でした。しかし、今回のリメイク版では出会ってから約2年の月日を経てから交通事故死するわけですから、ここの設定自体がまったく違っているのですね。となると、この第4時空はこのアメリカ・リメイク版ではあり得ないことになります。

アメリカ・リメイク版では事故の時期を大幅にずらすことによって、あえて混乱を深めるようなことはせず、ただ一つ上記のような問題だけは投げかけつつ、しかしかたちとしてはハッピーエンドにしたということでしょうか。

ただ、韓国版を見たときにはこの第4時空のシーンが最も理解しにくいものでありつつ、しかし余韻を生み出す源泉ともなっていました。その後いろいろと考えてきて今回アメリカ・リメイク版を見たら、上のように第3時空そのものの成立が危うくなってきています。そうすると今度は逆に、2人が実際に会って恋を成就させるためには、ソンヒョンが死ぬ前にやはりウンジュと会うしかない。それが、この韓国オリジナル版の第4時空世界の創造、つまり作者による一つの救いの手だったのかもしれない、と考えられるようになりました。まあ、本当のところはよくわかりませんけど……。ただ、可能性をいろいろと考えさせられるという意味ではやはり韓国オリジナル版のほうが趣がよほど深いと言っていいように思います。

いずれにしろ、この映画は私のようなタイムマシンものに目がない人間にとっては非常におもしろい作品でした。

ところで、並行宇宙の考え方の映画としてよくできていたと思ったのが洋画『タイム・トラベラー ~戦場に舞い降りた少年』(出演: トム・ウィルキンソン, ジュリー・コックス 監督: ハーレイ・コークリス)でした。過去に行って介入するたびに現在がその都度変わっているというストーリーで、歴史は一つだけでなくいろいろな可能性を持つという並行宇宙の考え方を色濃く出していた作品であったように思います。

さらに最近読んだ本で荒唐無稽とはいえ、かなりおもしろいのがありました。『未来人ジョン・タイターの大予言』(マックス発行)です。

これは正確には「予言」ではありません。並行宇宙であるもう一つの世界情勢を語ったものであり、ジョン・タイターは2036年からやってきたアメリカ人です。1998年夏にわれわれの世界(彼は物理学用語の「世界線」という語を使います)にやってきて、自分の両親の家に住み約3年を過ごしたそうです(当然、幼少時代の自分と同居します)。そして、2000年11月からおよそ5か月間をインターネット上の掲示板で未来人としての話を語り続け、当時はかなり話題になったようです。この本はそのときの書き込みを適宜編集してつくられた本のようです。

どんなことが書いてあるかというと、まず2034年にタイムマシンが発明されたこと。それから、もう一つの並行宇宙の地球では2005年から10年間アメリカで内戦が起こるそうです。また、アメリカでは狂牛病による死者がどんどん出てくるとか、われわれにとって近未来の話としては来年2008年の北京オリンピックは中止となっています。

繰り返しますが、これらはすべてもう一つの並行宇宙(世界線)の地球の話でありますから、われわれの今この地球でそういうことが起きるかどうかはわからないのです。ただ、極めて似通った並行宇宙のようなので将来当たるものもあるかもしれないとしています。

もっともタイターの話で間違いというか、彼の世界で起きたことでわれわれの世界では起きなかったことも記されています。それは、コンピュータの2000年問題です。タイターの属する世界では2000年問題で世界的な大混乱が生じたんだそうで、タイターはそれを非常に心配し、またそれに対応するためにわれわれの世界に滞在したふしがあるという話も載っていました。しかし、あっけなく新年を迎えたときにはしばし呆然としていたと言います。

もちろん、これらは巧妙なフィクションであり、並行宇宙をモチーフとしたイタズラだとするのが穏当な見方と言うべきでしょう。しかし、並行宇宙があるとしたら、またタイムマシンが未来に完成していたら、未来の人類が今の世界にやってきてもそれはまったくあり得ないことではないのかもしれません。少なくとも並行宇宙という考え方を学ぶには非常によくできた「物語」でした(笑)。

もしタイムマシンマニアの方で、未読の方にはぜひご一読をお薦めします。

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コメント

ご覧になったのですね。
疲れた頭でフミノフを飲みながらざっと読んだ範囲で失礼します。
この映画の設定は彼女の頭はバタフライエフェクトだ、ということだと思います。
記憶が上書きではなく、重複する世界ですね。

・床下の本

 恐らく彼は彼女の部屋番号を手紙で知っていた
 それで建設中に仕込んだ
  ※雨の日に植樹したように

・事故からの救出

 出した手紙を彼が読んだ瞬間未来が変わった
 (彼女と母親の会話が始めと違っているのが証拠だと思います)

・彼が事故死しなかった世界の彼女は彼と出会っていないのでは?

 ですよねー。

 しかし過去に変更があると、現在の彼女の記憶が変更する設定のようでしたよね。
 新居のお披露目パーティーのときも彼の突然参加で記憶に変更があったように見えました。

バタフライ・エフェクトでパラレルな世界の記憶を持ったまま主人公があちこち移動していたのと似ています。
たぶん彼女は彼と文通していた記憶を持ちつつ、彼と出会わなかったバージョンの記憶も持っているのでしょう。

この映画のもっと大事なテーマは女性はこれ以上待ちたくない、というものだと思います。
アラフォー恋愛世代をこれ以上待たせてはいけない。
大義のためには時空も曲げねばならないのです。

投稿: たこ麗子 | 2009年2月11日 (水) 00:42

いやあ麗子さん、随分お久しぶりでした。
そうですか、やはりハリウッド・リメイクもご覧になっていたんですね。

> この映画のもっと大事なテーマはアラフォー恋愛世代を
> これ以上待たせてはいけない。
> 大義のためには時空も曲げねばならないのです。

はっはっはっ。めちゃめちゃ受けました! 確かにねぇ、これ一言でいいのかもしれませんね。それにしても、こういう鋭い言辞は麗子さんならではの一言ですね(笑)。

さて、バタフライ・イフェクトのような並行宇宙の記憶を持つという視点は、わたしの場合はまったく考えていませんでした。その視点でもう一度見てみる必要があるかもしれませんね。

投稿: たるぼっと | 2009年2月12日 (木) 17:13

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