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2008年5月 9日 (金)

NHK連続テレビドラマ『ちりとてちん』総集編

総集編がこどもの日から2日連続であったことをたまたま知って、録画したものをようやく見ることが出来ました。

昨年11月から12月半ばくらいまでは見続けていたのですが、ちょっと迂遠(うえん)なところも続いていたため、ついつい見るのをやめてしまっていてその後もときどき見る程度になっていました。気にはなっていたので今回の総集編は大助かりです。

総集編を見て、ストーリーのあらましは以下のような流れで構成されていることがわかりました。

  起→ 「喜代美、小浜を出る」編
  承→ 「徒然亭草若に弟子入り」編
   転→ 「草若の死と落語常打ち小屋設立に奮闘」編
   結→ 「常打ち小屋の完成と喜代美の引退・出産」編

そして、このドラマのテーマは幾つかあると思いますが、どうやらいちばん重きを置いていたのは、母という存在は太陽のように家族を照らす素晴らしいものなんだ、ということでしょうか? あるいは、脇役という人生などない、ということだったのでしょうか。そんなことを感じました。

ところで、今回の二回にわたる総集編ドラマを見てもっとも感心したシナリオは、草若が病に倒れたため急遽「草若・若狭の二人会」が「草若弟子の会」となった天狗座での高座で、若狭がしゃべる創作落語の冒頭シーンです。ちょっと起こしてみます。

ようこそのお運び、厚く御礼申し上げます。

えー、きょうはもともとうちの師匠・草若とわたしの二人会のはずやったんでございますが、師匠が病に倒れまして
「これはえらいこっちゃ、だれぞおれの代わりに出てくれるかぁ?」
と尋ねましたところ、やはり天狗座の大舞台ですからね。四人の兄弟子が一斉に
「はい」、「はい」、「はい」、「はいーっ」と(笑)。
「おれの病の心配をするもんはおらんのか」
と言うてましたけど、
「まあ、ええわ。で、ネタは何かける?」
言うたら、うちの草原兄さん即答で
「はいっ、地獄八景を」。
「不吉なこと、言うな」(会場笑)

そない言いながらも結局うれしそうに稽古をつけてまして、師匠、地獄へ行く気、満々やないですか(会場爆笑!)。

まあ、どこまでもふざけた師匠ですけど何でこんなけったいな師匠に弟子入りしたかと言いますと、1本のカセットテープ、これに導かれて参りました。

小さい頃に聞いていた落語のテープ、これが草若師匠の高座でして、

カチッ(小拍子の音)
「こんにちは」
「はい、どちらさん?」
「わたし、和田と申します」
「わたしは草若と申します」
いや、知ってるから訪ねて来てます(会場笑)。

うーん、 実によく練られたシナリオですね。感心するばかりでした。
また、これを演じた貫地谷しほりも実にはまった感じで好演していて、「地獄へ行く気、満々やないですか」のところでは思わずぷっと吹き出してしまいました。

貫地谷の演技は総じて一生懸命無心に演じている様子が伝わってきて好感の持てるものでしたが、やはりやや若過ぎるか。結婚してから以降の演技にはところどころちょっと無理があったかなぁ、という感じがしていました。とくに草々とのラブシーンなんか、いま一つの感じがありましたし、夫婦とはとても思われない草々とのコンビネーションには思わず苦笑してしまったところもあります(笑)。まあ、落語家夫婦というのは先ごろ離婚した小朝夫妻の例がありますから、一般の夫婦とはよほど違うのかもしれませんが。

まあ貫地谷はあまり器用ではなさそうですし、ともするとやや一本調子の演技が目についたところもあったのですが、明るい表情が豊かで何故かピュアな芯のようなものが感じられて、知らず知らず応援したい気分にさせる魅力があります。

ですから、彼女の演技ではこの高座の語りシーンと最後の出産後の満足げなベッドで笑みを浮かべるシーンがいちばん印象に残っているのですが、やはり笑顔が絶えない明るいキャラクターがいまのところいちばん向いている役柄のように感じます。悲嘆にくれたり、苦悩するキャラクターを演じるにはいま一つ、まだまだこれからというところでしょうか。何しろまだ若いですからね、今後に期待です。

もう一つ、今回の総集編で印象に残ったのは母の糸子(和久井映見)と喜代美との対面のシーンです。喜代美が落語家を引退する心情、その理由を吐露するところです。ここも、ざっと振り返っておきましょうか。

「ひぐらし亭」の初日を妊娠によって高座に上がることができなくなった喜代美は、照明を担当することになりました。照明は、高校時代に主役から脇役に回された屈辱の経験が思い出され、喜代美にとって決して気分のいい仕事ではありません。しかし、今回は渋々でも引き受けることになりました。

さあ、常打ち小屋「ひぐらし亭」の初日が始まりました。

予定どおり、喜代美はスポットライトを当てます。草原を始めとして草々、小草若、四草、小草々の面々が次々に口上を述べます。ライトもそれに応じて切り替えていきます。そして口上の終わった草若一門に客席から暖かい拍手が起こるなか、喜代美はライトを当てながらふと順子(宮嶋麻衣)の言葉を思い出します。

順子「主役になるいうのは、ステージの真ん中に立ってスポットライトを浴びることやと思うとるんけ。人にライトを当てるいうのは、素敵な仕事やが」

それと同時に客席で一生懸命拍手する母・糸子の姿を見たとき喜代美は、はっと悟るものがあったのです。人に光を当てる仕事の何たるかを……。


ただし、この時点で何を悟ったのかはわれわれにはわかりません。ただ、喜代美は何事かを決意したように見えます。

さて、体調が回復したところでおじいちゃんの命日にひぐらし亭の高座をつとめることになった喜代美。滞りなく演目が終わると、最後にこの日で引退することを静かに観客に向けて伝えます。


何と引退を考えていたんですね。これが照明の際に悟ったことの結果なのでした。

びっくりした糸子をはじめ家族が楽屋になだれ込み、引退を撤回するよう説得します。そこで初めて喜代美は母・糸子に対して自分の思いを伝えるのです。

母・糸子から落語をやめることを思いとどまるよう言いまくられて、喜代美は糸子に対して「ごめんなさい」と謝ります。糸子は、「それならそんなこと言いないな」と応えるのですが、それに対して喜代美は 「そのことやない。小浜出るとき、ひどいこと言うてごめんな」 と返します。

ここで回想シーンです。
小浜を出たいと言う喜代美に対して

糸子「ここにおりなさい」
喜代美「いやや」
糸子「何でや」
喜代美「お母ちゃんみたいになりたくないの!」


回想シーンが終わり、ややあって

喜代美「ごめんなさい。あのころ、私、お母ちゃんの仕事はしょうもない思とった。自分のやりたいことなんか後回しで、家族の心配ばっかりして、世話焼いて、人のことで笑(わろ)たり泣いたり、なんてつまらん脇役人生や、思とった。けど、そうやなかったんやね。お母ちゃんは太陽みたいに、いつでも周りを照らしてくれとる。毎日、毎日……、それがどんだけ素敵なことかわかったんや。どんだけ豊かな人生か、わかったんや」


そして続けます。

喜代美「お母ちゃん、ありがとう。ずっとずっとお腹におるときから大事に大事にしてくれてありがとう」


さあ、思いもかけないことを言われた母・糸子はびっくり! 

しかし、それはまた母にとって何にも勝る積年の自分に対するねぎらいの言葉です。引退を思いとどまらせたい気持ちだったのが、自分に対するねぎらいの言葉にうれしい気持ちは隠しようもありません。そして、やっとこう言います。

糸子「何言うとるんやな。この子は……」

ややあってもう一度
糸子「この子は!」
(この二度目の「この子は!」での和久井の演技は最高でした!)

喜代美の頬に両手を当てながら込み上げる気持ちに堪えない面持ちです。


喜代美「わたし、お母ちゃんみたいになりたい。お母ちゃんみたいになりたいんや」

いやあ、ここの二人の演技はだれをも泣かさずにはおかないものでした。このドラマ全体の終幕を飾るにふさわしい熱演・名演だったと言ってよいでしょう。

                                         ****************

最後は出産のシーンで終わりましたが、その直前に愛宕山の一節「その道中の陽気なこと!」が締めとして草々によって高らかに唱えられました。

結局、このドラマでは愛宕山が終始ドラマの節目、節目に出てきたわけで、この落語がこのドラマの通奏低音のような役割を果たしていたようです。上方落語の存在感をこの「愛宕山」に託して見事に印象付けたように思います。

ところで、ここで少し話題を変え役者についていくつか述べさせてもらいます。

今回のドラマでは、ベテランの名優クラスと新人の俳優が競い合うかのように演じておりました。 草若の渡瀬恒彦や小梅の江波杏子は期待されたとおりの演技でしたし、またこのドラマで最も名演を魅せてくれたのはやはり和久井映見でしょう。コミカルな演技という新境地も披瀝して幅の広さまで感じさせてくれました。

次いで、新人と言っていいのでしょうが草若の弟子陣がそろいもそろって皆さんなかなか魅力的なものでした。 草原の桂吉弥、草々の青木崇高、小草若の茂山宗彦、四草の加藤虎ノ介。それぞれが熱演、好演していたように思います。それぞれに個性が感じられ、このドラマを見て新たにファンになった人も多いように思います。

青木・草々は、脚本のせいですから仕方ないのですがアフロヘア時代のほうがより魅力的でしたね。四草は要所、要所でドラマにおけるスパイスの味をうまく出していて、加藤虎ノ介にとっては出世作となったのではないでしょうか。

また喜代美の友人として野口順子役の宮嶋麻衣も出番の少ない割には非常に印象に残った役者さんでした。洞察力のあるしっかり者という、かなりドラマの鍵になる役柄でもありましたから得な面もあったかもしれません。もちろん、A子・和田清美役の佐藤めぐみも印象的でした。もっとも、上京した後については若過ぎて演技が難しかったかもしれませんね。いくら表情をつくっても、見目形がきれいすぎて東京で苦汁をなめたという感じがほとんど伝わりませんでしたから(笑)。

ほかに個人的に印象に残った人は、喜代美の弟役の橋本淳と草原の妻・緑役の押元奈緒子のお二人でしょうか。今後もどこかでお見かけすることを期待します。

また、ナレーションの上沼恵美子はやはりよかったように思います。ナレーションが品のよい上方らしさをうまく醸し出していたように思います。

最後に、ちゃんと毎朝全部見たわけでなく、ときどき見た程度で今回の総集編を見ての話ですから勘違いしているところのあることを百も承知のうえで、このドラマについての総合的な感想を。

わたしは前半はかなりおもしろく拝見したのですが、途中から見たいところ――年季があけるまでの修業中の喜代美が四苦八苦する姿がほとんど見られなかったり、あるいは草若が死への床に伏してから延々と見舞い客とのやりとりがあるような筋立てにうんざりしてしまい、ついつい見るのが億劫になってしまいました。

各俳優さんのファンに対するサービスだったのかもしれませんが、言うまでもなく俳優があってドラマがあるのではありません。やはりどんな名優がいるにしても、ストーリー優先でつくり込んでほしかったように思います。どことなく俳優陣の出番に配慮し過ぎのきらいが感じられたのでこういうのですが、思い違いだったらごめんなさい。

いずれにしろこのドラマの脚本は非常におもしろくてまたよく練られたものでした。藤本有紀という脚本家を今回まで知りませんでしたが間違いなく才能のある人だと思います。今後も注目していきたいものです。

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