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2008年10月25日 (土)

『闇の子供たち』

昨日、レイトショーで『闇の子供たち』を観てきました。この映画については友人のクチコミで知り、またテレビで主役の江口洋介がこの映画について語っていたのを覚えていましたので関心はあったのですが、観るのはさてどうしようか、と迷っていました。というのは、人身売買のうえに臓器移植まで絡んでいる話ですから、ちょっとどんな映像に出くわすのかやや恐怖感もあったからです。余りに恐怖感を植えつけるようなたぐいの映画は、実はとても苦手なんです。

最終的に「やはり観てみよう」と決断したのは今という時代の現実にある残酷な事実にもきちんと一度向き合ってみようかくらいの気分から、とでも言うしかありません。いや、実際のところは「何だか観なきゃいけないな」みたいな漠然とした義務感が自分の奥底にあったからだと思います。

さて、キャストはなかなか手堅いものでした。だから、ある程度安心できた――さほど残酷極まる恐怖映像はないだろうというところもあったように思います。見る人によってはギリギリの表現もあったかと思いますが、全体的に私の場合はまずだいじょうぶ、耐えられるものでした。

主役の新聞記者役に上述の江口洋介、タイの児童福祉施設に協力に来た日本のNGO出身のボランティア・スタッフに宮崎あおい、臓器移植を必要とする子供の父親役に佐藤浩市、フリーカメラマン役に妻夫木聡などです。その他恐らくタイでは著名な役者さんたちが絡み、上映時間約140分という長さを決して意識させないだけの力作となっておりました。そして、タイの子役たちがとてもすばらしかったです。とにかく目に宿る純粋な光が美しい。結果としていやが上にもストーリーのおぞましさが際立つこととなっていたように思います。

いつもは気に入った映画しか感想を書いていないのですが、今回はそういう気に入るとか気に入らないというような範疇を超えている映画です。ただ率直に感じたままを記してみます。

ここからネタバレ注意!

ある1つの見方で思い切り簡単にこの映画のストーリーを書くとしたら、タイの貧しい幼い姉妹ヤイルーンとセンラーが人買いに売られ、ヤイルーンはエイズで、センラーは心臓の提供によって死んでしまう物語と書けるでしょう。

しかし、主人公の新聞記者の立場から書くと以下のようになります。

日本新聞社のタイ駐在員である南部浩行(江口洋介)は、東京に妻と幼い娘を置いてバンコクに単身赴任している。そんなある日、本社の社会部の記者・清水哲夫(豊原功補)から日本で心臓移植の必要な子供がタイで移植を受けるらしい、ついてはタイでの内臓移植の実情を調査してほしいと協力依頼される。早速、南部は現地の伝を頼って内臓売買の元・仲介人に接触する。すると、何と移植される内臓は子供が生きたまま麻酔されて取り出され移植されるという事実に行き当たるのだった。心臓の場合は、つまり子供が殺されるということである。こんなことが本当にあるのだろうか、そのため南部は調査を進めるが……。

ま、大枠ではこういうストーリー構成です。

この後、映画では南部の手がけた調査にタイの児童福祉施設も協力することになります。そして、その施設には日本のNGO出身の音羽恵子(宮崎あおい)がボランティア・スタッフとして加わっていました。やがて調査を進めるうちに、ことは移植用内臓売買から幼児売買春の世界へと広がっていきます。つまり、貧しい家庭の子供たちが親によって闇の世界に売られており、何と子供たちは富裕な欧米人・日本人らによって性の玩具として働かされていたのです。それらの表現はやや抑えられていたにしても(小説を読んだ友人に言わせると小説はもっと生々しいとか)、やはりかなりショッキングな映像でありました。

ただこのテーマ自体、つまり内臓売買や幼児買春などについては以前テレビでインドの貧しい地域でも行われているというレポートを見たこともありましたのでさほどびっくりはしませんでした。でも幼児売買春の具体的な姿――少年・少女たちの被る具体的なひどい姿についてはテレビの性格上ナレーションのみでほとんど詳しく触れられていませんでしたから、この映画によって初めてそのショッキングな内容を知ることとなりました。とても正視できるようなたぐいのものではありません。

そして、この映画はこれらの実態を伝えることによって次の2点を強烈にアピールしています。

・幼児売買春……人間はお金を払えばどんなことでも――人間の尊厳まで冒涜することが許されるのか?

・内臓売買……人間の命は果たしてお金で買えるのか? お金がない者はお金のある者のためにその命を犠牲にしなければならないのか?

もちろんこれらは反語表現であり、疑問文などではありません。しかし、そういうかたちでしか問題提起できない今の時代というものを前提にしているようです。そして資本主義の極みによる弊害という言い方だけで済ませるわけにはいかない、もっと人間の「欲」に潜む根源的な闇について告発しています。

エイズにかかって瀕死の状態のため商品価値を無くしてしまったカイルーンは、黒いごみ袋の中に入れられてゴミ収集車に投げ入れられてしまいます。幸い日本と違い粉砕機は付いていませんので幾分ホッとしましたが、そのゴミがちょうど日本の夢の島のような広いゴミ集積場に置き捨てられます。まだ生きているカイルーンは袋から何とか這いだしふらつきながらも歩き始めるのです。そして遂には山間の貧しい村にある実家までたどり着きます。しかしすぐにも死を目前にしていることが誰の目にもわかるこの少女に、親は竹製の簡易ベッドに寝かせてやるしかありません。そしてついには死んでそのベッドごと焼かれてしまうのです。

この焼かれるシーン、それはそれは哀しいもの……。村の人々が皆その焼かれる火を囲むように無言で見ています。そうした光景――じっと静かに立ち尽くす人々の中で動きのあるのは泣き崩れる母親らしい女のゆれる肩と、犬が後ろ足で首をかいている、それだけです。余りにも凄惨でこういう子供を目の前にしているわれわれとは一体何者なのか、と考えずにはおられませんでした。

一方、そのころ妹のセンラーはお風呂に入って清潔にされ、恐らく人生で初めてであろうきれいな服を着せてもらい心臓移植の行われる病院に到着します。映画では病院に入る玄関のところで映像は終わりますが、もちろんその後どういう展開になるかについて観客は十分理解しています。

それでも映画の後半では何とかこれら闇の商人たちを逮捕して子供たちが救われるというかたちにしてあります。でも、それによってわれわれの留飲が下がるわけでも、問題が解決したという安堵感が生じるわけでも決してありません。これらの現実を生む構造的な背景がしっかりと分かっているからです。そして、これら悪徳の仲介にかかわる人たちのほとんども、こんな現実には嫌気がさしており、心から受け入れているわけではないことが映画の随所にかいま見えているのです。

さて、この映画のラストです。

実は主人公・南部の自殺で終わります。これもまたこの映画の初めから数々の伏線がありました。時折フラッシュバックのように挿入される南部らしき男が幼い男児を連れて夜の街を歩く姿や、児童福祉施設で子供たちと遊んでいる南部を見て施設の女所長が「あら、彼は子供が好きなのね」とつぶやくシーン等々……。そうです、南部もあの忌まわしい幼児性愛者の1人であったのです。

当初は本社の要請から現地記者として内臓売買調査を進めていたわけですが、上述したようにそれらが幼児売買春の世界へとつながるうちに自分の為してきたことの恐ろしいまでの罪深さを自覚していく、そういう内面のドラマとしても撮られていたことにわれわれ観客は気づかされるのです。

そして、われわれ日本人の中にもこうした欲望がふとしたことで出てしまう人間がいるということだけでなく、幼い男児にホルモン注射(性的興奮剤)を過剰に投与して性的玩具にしたあげくその男児を殺してしまった白人女性をも映し出すことによって、幼児買春の恐ろしいまでの普遍性――つまり富裕であれば男性のみならず女性にもその種の欲望があることについても言及しています。そういう告発対象の広さに象徴される深い洞察力には舌を巻くしかありません。つまり、「私」には関係のない遠い世界の話とは誰にも言わせない映画としてもつくられているようです(あるブログでも見かけましたが最後に出てくる南部の部屋の「鏡」はその象徴と言っていいでしょう)。

最後に一言。

予想どおり実に重い、重い映画でした。誰にでもお薦めの作品とは言えませんがそれなりの覚悟をお持ちになれる方にはやはり一度見ておいてよい力作です。

なぜ迷いながらも「見なきゃいけない」と私は感じたのか。それを今考えると、知ることは光を当てることであるからだ、と無意識に感じていたんだろうと思います。すぐにこういった現実を無くすことはできないかもしれません。しかし、まずわれわれがこういう事実をきちんと知ることによって闇の世界は徐々に力を失い、やがては現実を変えていく勢力の一端を担えるのではないか、そんなふうに感じます。そういう意味でもいろいろな方に見てもらいたい映画です。

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2008年10月10日 (金)

私の好きな『ニコニコ動画』

はじめに一言。以下の記事は私的にニコニコ動画を視聴して感じたことをそのまま述べてみたものです。視聴しはじめてからまだ半年なのですが、おもしろいものや感動的なものなどたくさんあるので、まだ見ていない方々に是非紹介したいとの思いから書き込んだものです。また、ニコニコ動画では圧倒的な投稿数を誇るアニメ類については一部の音楽や踊りとかぶるもの以外ほとんど紹介していません。それは私がアニメをほとんど見ないからです。ということでアニメに特に関心を持たないような人間でも結構楽しめるニコニコ動画ということで紹介させていただきます。

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「ニコニコ動画」を知ったのは今年の春3月でした。昨年から「you tube」をときどき見ていましたが、とりたてておもしろい動画に出会えなかったこともあり、いわゆる動画サイト一般には特に興味はありませんでした。ところが、あるとき「you tube」を見ているときにニコニコ動画からの転載というのを何本か見たのですが、音声と絵が極端にずれていたため元の動画を見ようとしたことがきっかけでこのサイトを覗いてみたのが最初でした。

このニコニコ動画は無料で見られる動画投稿サイトです。ただし、アカウントを取るためにちょっとした入会登録手続きがあります。年齢やメールアドレスなど多少の個人情報を書き入れることでアカウントを取得でき、その後は自分で設定したパスワードを入力することによってサイトに入ることが可能になります。無料会員のほかに特典の付く有料のプレミアム会員もありますが、詳しくはこのサイトで案内されていますのでそちらを見てください。

さて、このサイトには you tube 同様いろいろな人がいろんな動画を投稿しています。そのジャンルも当然幅広く音楽、アニメ、ゲーム、スポーツなど22のカテゴリーに分かれています。私の印象では圧倒的にアニメ・カテゴリーの投稿が多いようですから、アニメ・ファンにとってはとても楽しめるサイトなのでしょう。

とはいえ、冒頭に述べたようにスタジオジブリなどのアニメ映画を観ることはあっても、さほどテレビ・アニメなど見てこなかった私にとって、ほとんどアニメで埋め尽くされる総合ランキング動画群を見たときには格別の魅力を感じられませんでした。

ただ試しにいくつかの動画を見てみたら、画面に視聴者の思い思いのコメントが付いていて、それがなかなかユーモアたっぷりだったり、投稿者への励ましだったり、あるいは真摯な批判だったりとなかなかおもしろそうに見えたのです。そんなことから折に触れていろいろな動画を見ていくうちに、この「ニコニコ動画」の魅力がだんだんわかってきたのです。

上記のコメント付加機能は、自由に自分の思ったコメントを動画画面に載せることができる機能です。これは、昔お茶の間でテレビを見ながら家族が一緒に「ああだ、こうだ」と感想を言い合っていた姿をネット上に実現させたというふれ込みで登場したものですが、まさにそのとおりのものです。適切なコメントには思わずうなずいてしまいますし、「頑張れ」など応援のコメントなどには投稿者もさぞ励まされることでしょう。

もっとも、もろ刃の剣でもあって”荒らし”と呼ばれる誹謗中傷のコメントの洪水まで出てきたりしますので、その辺をどうするかというのが今後の課題かもしれません(コメントを消して見ることができるなど、幾つか対策は取れるのですが)。

それでは、各カテゴリー別に私の気に入った動画を中心に紹介してみます。

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●【踊ってみた】カテゴリー

私がたまたま最初に見ていてこれはおもしろいと感じたのはこの「踊ってみた」カテゴリーの動画でした。これはその名のとおり、素人投稿者が一人(あるいは複数のときもあります)で踊った姿をデジカメなどで撮影して投稿するものです。

まず、感心したのは「47」さん(「47」が投稿ハンドルネームです。ニコニコ動画でのハンドル名はこのように思いつきのようなものが多いです)のこの動画でした。

「Honeyを踊ってみた」

台湾のアイドル歌手・王心凌の『Honey』の振り付けを覚えて踊ったんだそうです。踊っている楽しさが見ているこちらにも伝わり、素人でもこんなに踊りのうまい人がいるものかと感心させられたものです(この動画は後にNHK-BS2のある番組にも取り上げられました)。

そして、47さんについてはもう1つ、ぜひ紹介したいものがあります。これまた見ていてとても浮き浮きさせられる動画です。

「うぇるかむUNKNOWNを踊ってみた」

このお嬢さんの踊りは本当に楽しそうで感動さえ覚えます。日常的な朝のひとときにちょっと気分がよくて踊ってみたという感じがよく伝わりますし、同時に若さや健やかさをまぶしいまでに感じてしまう動画です。

さて、次に紹介したいのはこの人「阿部子」さん。ニコニコ動画「踊ってみた」カテゴリーでも広範な人気を獲得されているお嬢さんです。どの動画も楽しいのですが、ここではこれにします。

「最強パレパレードを踊ってみた」

とくに最後のほうはノリのよさが昂じて一種の開き直りというか、嫁入り前のお嬢さんであることを忘れかけているような(失礼!)、その辺の感じがとても素晴らしい(笑)。

さて、3番目に紹介したいのは「おかめいど」さんです。この方は”おかめ”の面を付けて、和服、それも踊りにくいであろうに振り袖を着て踊っているお嬢さんです。日本舞踊でもずっとやってらしたんでしょうか、着物さばきのうまさに加え手の動き1つひとつがとてもきれいですし、しかも顔の向きなども実に決まっていて、まるで歌舞伎の見得を切るようなきびきびしたしぐさが実に見事です。

「Princess Bride!を踊ってみました」

歌はやはりアニメが元歌のようですが詳しくは検索して調べてみてください(以降も同じです。いちいち説明はしません)。

47さんが踊りの楽しさを観る人に直接伝えてくれる踊り手さんとすれば、阿部子さんは若い女性のエネルギッシュなダイナミズムを思い切り感じさせてくれる踊り手さんです。そして、このおかめいどさんはさしずめ和とアートを感じさせてくれる踊り手さんかと思います。いずれの踊り手さんも見ごたえのある動画をほかにも投稿してくれています。

ところで、そのほかにもおもしろい踊りがいっぱいありました。

たとえば「男女」という歌。こんなおもしろい歌と踊りを、私はこのニコニコ動画で初めて知ったのですが、ここではその踊りを阿部子さんと39さんのコラボ・ダンスによって紹介します。

「男女」

1番の歌詞は、どうやら修学旅行での場面を歌ったみたいですが、どういう来歴の歌なのかはよく調べていないのでわかりません。いずれにしろ、歌詞がおもしろいだけでなく踊りもなかなか楽しめるものであることは誰もが納得されることでしょう。

次は通称「ウッーウッー、ウマウマ」。日本人には空耳でそう聞こえるのですが、実は“ウッーウッーウアウア”なんだそうです。歌っているのはCaramellというスウェーデンのアーティストで、正式の歌名は『Caramelldansen』です。この歌を元にしてアニメの登場人物がこの曲に合わせて踊っているアニメ(こういうのを「MADムービー」とか言うらしいです)ができています。

「Caramelldansen ver.ウッーウッーウマウマ」

ニコニコ動画ではこの踊りを真似るのが今年かなり流行りましたが、海外ではすでに数年前に流行っていたそうです。事実、you tubeではいろいろな国のいろんな年齢層の方々が踊っているのを見ることができます。ニコニコ動画でももちろん踊っている方がたくさんいらっしゃいます。

さて男性も一人紹介しておきます。男性の踊り手はやや少ないようですが、中にはとても感心してしまう方もいます。

「イー・アル・カンフーでラップ、で踊ってみた」

歌詞もおもしろい歌で笑ってしまうのですが(後で紹介する「ヒャダイン」さんの歌です)、それに合わせてこういう踊りを見せてくれるのが「M太子」さんです。見ていて思わず惹き込まれた印象的な踊りです。途中で後ろのガラス戸から覗く妹さんらしい姿もほほ笑ましく、投稿する皆さんが日常生活の中でふっと投稿していることがよくわかります。

最後に、「踊ってみた」カテゴリーではないのですが関連するものとしてどうしても入れておかなくてはいけない動画があります(本来は「エンターテイメント」カテゴリーです)。私はとくに好きというほどでもないのですが、何と言っても2008年10月10日現在で300万以上という再生数を誇る動画ですし、海外でも視聴再生数が抜群のものということですから紹介しないわけにいきません。

まずは、ご覧になってみてください。

「M.C.ドナルドはダンスに夢中なのか?最終鬼畜道化師ドナルド・M」

ちょっとしつこいくらい繰り返しが多いのが、私には減点要因です。まあ、しかし最初の印象はやはりとても新鮮であり、引き込まれたことに偽りはありません。

you tubeでこの動画を見ると、この動画に対するレスポンスとして世界のあちこちでこの踊りを真似ている人々を確認することができます。世界の人々にはかなりインパクトがあったようです。確かにちょっと変わった系統の踊りですね(笑)。

なお、世界におけるニコニコ動画に対する反応は、ニコニコ動画サイトの検索窓に「海外の反応」と入れるとそのシリーズの動画が呼び出されますから、その中にこれらについての海外の反応の内容が詳しく紹介されています。海外の反応シリーズはとてもおもしろい上よい動画を捜すときに役に立ちます。


●【演奏してみた】カテゴリー

「踊ってみた」を一とおり見終わったころ、興味をもって見始めたのがこの「演奏してみた」カテゴリーでした。

まず、度肝を抜かれたのがこの動画です。

「カノンロック ピアノバージョン2」

子供用おもちゃのピアノでの演奏、素晴らしいです。最初こそ何の変哲もない単音をきれいに弾いているだけに見えるのですが、後半からの演奏にびっくりしてしまいます。

こんな素晴らしい人もいるということでランキングを使って「演奏してみた」シリーズのいろいろな動画を視聴してみたら、まあ愉快なものあり、思わず笑ってしまうものあり、感動するしかないものありでこれまたなかなか飽きさせません。

まず、びっくりしてしかも笑ってしまったものを2つ。これは、NHKのBS2でも放送されたのでご存じの方もいらっしゃるかも知れません。

「一人で情熱大陸とかセッションしてみた」

ウマのかぶり物がトレードマークの投稿ハンドル名「中村イネ」さんの作品です。ご覧になればわかるように6つのすべての楽器を自分で演奏して、それぞれを個別に撮りその後に編集してつくり込んだという、今の時代ならではの力作です。若者らしい洒落っ気も感じさせられますし、何と言ってもその集中力とエネルギーに脱帽です(笑)。最初見たときは、本当にびっくりしてしまったものです。

これに触発されて別の方向でびっくりさせる演奏をされたのがハンドル「事務員G」さんです。彼の「情熱大陸」はこれです。とにかくまずご覧ください。

「1人で同時に情熱大陸を演奏してみた」

ご覧のとおり1人で”同時に”というところがミソです。これを最初に見たときは、申しわけないのですがまず笑っちゃいました(笑)。でも、その慌ただしい演奏ぶりをずっと見ているうちについつい”頑張れ、頑張れ”と思わず声援を送りたくなります。実にユニークな演奏者ではあります。

以上はたまたまやや曲芸もどきのような珍しいものを紹介してみたのですが、もちろんそうでない演奏者の方が圧倒的多数です。

最初に感心したのは、エレクトーン奏者の「maru」さんでした。

ファミコンゲームに『ドラゴンクエスト』というシリーズがありますが、そのゲーム中に流れる音楽をエレクトーンで見事なまでに演奏してくれるのです。まずはこれ。「ドラクエVIII」というのはプレイしたことがないのですが、この曲が非常に好きになりました。しかも効果音まで入れています。テンポも弾むようでただすごいの一言です!

「ドラクエVIII「雄叫びをあげて」を弾いてみた」

そして、ドラクエIVから。

「ドラクエIV5章のフィールドとか弾いてみました」

これは本当に何十回も聞きました。とにかくエレトーンという楽器を見直しさせられました。エレクトーンって何となく薄っぺらなイメージだった(失礼!)のですが、これほどまでの演奏をお聞きするに至っては自分の認識を完全に変えざるを得ません。

それとともに視聴者によるコメントがいちいち適切でかつユーモアあふれるものが多く、いろんな人と一緒になって感激しながら聴いているような気分にされました。コメント機能が一層の高揚感に誘ってくれるものであることに気づかされた動画でもあります。

さらに付け加えさせてもらえればmaruさんのテクニックのすごさ、ハートのこもった演奏のすばらしさはもちろんのことですが、それとともに「すぎやまこういち」という作曲家を改めて見直しさせられたことです。

当然リクエストが引きも切らず、それらに応えて彼女は「ジュラシックパーク」「インディジョーンズ」などの映画音楽にも挑戦してくれ視聴者から大いに感謝され人気を博しています。

さて、次に紹介したいのはこちらです。魔界弦楽団というタグもあるのですが、それはともかく個人1人ひとりが別々に録音・録画したものを1人ずつふやしていってつくるという例です(ヘッドフォン推奨)。

「『地球へ~Loveis…』を弦楽四重奏」

具体的にはドクロのような面をつけた「スクリームの人」がこの曲のメインテーマを弾いて投稿します。次にウサギのかぶり物を付けた「ウサコ」さんが第1バイオリンの動画に合わせて第2バイオリンを弾き、2人の演奏を合成したものをつくります。そして今度は、チェロの「のんすけ」さんがまたそれにつけ加わり、最後にビオラの「カエル」さんがやはり加わってつくられた合成動画ということになります。

4人の方が1ヶ所に集まってつくられたわけではなく、それぞれが自宅なりで最初の動画に合わせて演奏し順々に重ねていったわけです。すごいですねぇ。こういうことができること自体に技術・文化面での日本の豊かさが示されているわけで、その点にも感心します。

ところで、この四重奏のメンバーの1人ウサコさんはなかなか器用な方のようで動画編集もできれば歌もやりますし、先に紹介した中村イネさんと同じように1人でセッションしたものまで投稿されています。次の動画は、彼女がバイオリン、タンバリン、コーラスそしてソロを1人で演じているのですが、なかなか楽しい演奏で私は好きです。

「年下の男の子をひとりで演奏してみた」

次に同じ往年の歌謡曲つながりということで生ギター・ソロも紹介しておきましょう。弾き手はかぶり物が豚なので「豚」さんとなっています。

「赤いスイートピー(my sweet pea)」

本当にいい音色のギターでうっとりしてしまいます。なお、これも1台のギターでなく3台(?)くらいの演奏を重ね録りしているようですね。なお、私はひそかにこの演奏をバックにウサコさんに歌ってみてほしいものだ、などと思ったりしていますが、さて(笑)。

このほか、エレキギター、エレキベース、ドラムス、ピアノ、リコーダーなど各種の楽器で演奏される方々がいっぱいおられます。自分の好きな演奏者を見つけて楽しむのがいちばんですから、いろいろと聞き比べてみたいものです。

●【歌ってみた】カテゴリー

このカテゴリーでは特有のものがあります。それは、ボーカロイド(VOCALOID)です。ボーカロイドとは"Vocal"と"Android"との合成造語で自由に歌を歌わせることのできるソフトウェアのことです。実際には、声優さんなど本物の人間の低い声から高い声までたくさんサンプリングして、それらを音声の素(もと)として取り込みコンピュータで歌わせるプログラム・システムということのようです[詳しいことは、Wikipediaなどに書いてあります]。

ある意味これは画期的なソフトです。例えば自分の声や歌唱力に自信がない人でも作曲のうまい人はいます。そういう人が自分のつくった歌を、遠慮しながら他人に歌ってもらうのでなく、できるだけ自分の意図のままにボーカロイドに歌わせることができるのです(まあ、限界は当然ありますが)。また、使い方によっては著作権などを回避するためにも利用することが可能ですから、とても重宝することもあるでしょう。

そんなことを頭に入れておいて、まずは代表的なボーカロイドを紹介します。

まず初音(はつね)ミクの歌から始めます。

「みくみくにしてあげる♪」

これは秋葉原界隈かどこかで聞いたような歌でしたが、ボーカロイドの歌とは知りませんでした。「ika」さんの作とのことですが、ちょっと不思議な魅力のあるフレーズが耳に残ります。ニコニコ動画では500万再生というすごい視聴再生数を誇るものです。また、

「メルト」

これは「ryo」さんという作曲者がオリジナルでつくった歌です。それを初音ミクに歌わせて投稿したら、爆発的な人気ソングになったということです。メルトは「melt」で”とろけちゃいそうな”恋というくらいの意味でしょうか。歌詞がなかなかうまくて誰にでも身に覚えのありそうな初恋のワンシーンを明るく、しかしちゃんと落ちまで付けて歌いあげています。

ところでこの歌は女性バージョンなので、歌詞を男性バージョンに少し替えたものを「halyosy」さんが歌っています。これもかなりのインパクトのある歌のため最近100万再生を記録したばかりです。

「メルト」を歌ってみた(男性キー上げVer.)

後半で、オリジナルにはなかった長く伸びる高音のところに、聴く人はある種のカタルシスを感じてしまうのではないでしょうか。曲のすばらしさと生身の声のすばらしさのコラボの傑作と言える代表的動画のように思います。

さてメルトと同様、やはり誰にも覚えのありそうな淡い恋の歌としては次のような「cokesi」さん作の曲もあります。

「コンビニ」

メルトと言いこのコンビニと言い、ふだん日常的に慣れ親しんでいる景色のなかにある本当に個人的で小さな小さなドラマが歌われているのが微笑ましいです。だからこそ、多くの人にも理解されまた支持されているのでしょう。

この曲から派生したものとしてストーリー性のあるきれいな絵をつけてくれたものもあって、こちらだと歌詞のストリーリーがよりわかりやすくなっています。→絵付き動画

このようにニコニコ動画では1人が歌をつくると、それに感動した別の人が絵をつけるなどしてどんどん1つの作品が音楽的にも視覚的にも完成度を増すことができるのです。それが非常におもしろいところです。いわば文化的コラボの”るつぼ”としても機能しているわけで、そういうセッション感にも魅力があるのではないかと思います。

次に、ちょっと毛色の変わったところでジャズを歌う初音ミクを紹介します。これも素晴らしいオリジナル曲です(作曲は「OSTER Project」さん)。

「ミラクルペイント」

実に浮き浮きした曲で私の大好きな曲の1つです。声の質もちょうど初音ミクにぴったりといった感じがします。

この曲にも派生したものがあります。今度は絵でなくトロンボーンを付けた動画です。この動画に感動したトロンボーン吹きの方が投稿したものです。

「ミラクルペイントにトロンボーンを重ねてみた」

これもトロンボーンを別録りして3台くらいにしているでしょうか。柔らかい音色で本当に楽しそうに合わせていらっしゃるのがよくわかります。

一方、初音ミクに関連して冗談のニュアンスの強いものとして「弱音ハク」の歌があります。なぜこの名が付いたのかは動画を視聴すればすぐにわかりますが、この歌がまたとてもいいんです。私はかなり聞きほれてしまいました。

オリジナルreasonカバーの[レーズン]

歌詞があまりに可哀想でトホホなのですが、メロディーが素敵で(原作曲は菩薩Pさん)ついつい聞きほれてしまいます。

ついで紹介したいのがKAITOです。

「パプリカED「白虎野の娘」兄さん10人前(+リン2人前)」

曲自体は、筒井康隆原作の小説『パプリカ』の映画版のエンディング・テーマ曲で作曲は平沢進です。このKAITOの高音の伸びのある響きはちょっと真似のできないものかと思います。また平沢進のこの音楽自体もとても魅力的で何度も聴き入ってしまいました。何とも言えないエキゾチックというか不思議なメロディーが耳に残って仕方ありません。

さて、ボーカロイド鏡音リンの歌も1つあげておきます。

「ココロ」

この曲は「トラボルタ」という方のオリジナルです。実にいい曲で、また歌詞もすごく印象に残るものとなっています。以下に紹介する派生したものももちろんよいのですが、このオリジナルはむしろいろいろなものを削り尽くした美しさを感じさせてくれるという点で独自の輝きを放っています。

では派生したものを、今度は2つ紹介します。まずは

「なまにゅる粉」さんの「ココロ」

絵は「タツリ」さんの作です。その絵を使ってなまにゅる粉さんが歌った動画ということですね。オリジナルからどんどん進化していっています。それらしく声に少し加工したりもしていますが、せりふなども入れてありストーリーがより一層わかりやすい動画となりました。

そしてこのなまにゅる粉さんのココロがyou tubeに転載され、それを見たベネズエラの女の子がスペイン語で歌ったのがこれです(you tubeより転載のもの)。

「ココロ Spanosh fandub」

このベネズエラ人の女の子についてはあまりよくわかりませんが、スペイン語でもこの歌の持つ情感が十分伝わる歌でした。

それにしても、この曲の持つ普遍的な魅力が地球の裏側の女の子の心まで届いたことにはびっくりです。素人の方でも本当にすごい才能をお持ちの方がいっぱいいらっしゃることがよくわかります。

さて次にMEIKOの歌も1つ。「踊ってみた」で私の聞きなれた曲だったため、これを挙げさせてもらいます。初音ミクや鏡音リンなどとはまた違った味があります。

「咲音メイコ「HONEY」」

最後のボーカロイド紹介はこの三人の歌にしておきましょう。

「鏡音リン・レン、初音ミク ぱっへるべるのかのんニ短調」

ボーカロイドはソフトウェアなので、こういう楽器的な使い方もできるという見本ですね。長調よりもこちらの短調のほうがきれいに感じたものですから、こちらを挙げておきました。

以上で、ボーカロイドについての紹介を終えます。ボーカロイドは、機械的に扱えるところもあるので生身の人間が歌うにはほぼ不可能な高音声の持続ができたり、音の落差がどんなに大きくても正確に出せたり、またリズムをものすごく短く刻めたりするので可能性はまだまだたくさんありそうです。

しかも、サンプリングが示すように人間の声に非常に忠実な面もありますから、機械的な人工音声とも一線を画しているという長所があります。ただ、やはりやや滑舌に難もあり歌詞がはっきり聴き取りにくいところのあることが今後の改善の余地を感じさせます。

いずれにしろ、こういう道具としてのボーカロイドの存在は音楽シーンに新しい側面を湧出させる可能性は十分ありそうです(例えばボーカロイドのアルバムCDが出たりとか……)。

              ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

さて、今までにも関連するかたちで多少紹介してきましたがボーカロイドではない歌い手さんの紹介もしておきます。たくさんいらっしゃるのですが、私もまだほんのわずかの方しか聞いていないことをご承知おきください。

1つめは「ヒャダイン」さんのこの曲です。ヒャダインさんは「踊ってみた」で紹介したM太子さんの踊った「イー・アル・カンフー」の歌い手さんでもあります。

Dr.マリオのメロで「はじめてのともだち」

原曲は「Dr.マリオ」というファミコン・ゲームの曲らしいのですが、とにかく美しく仕上げられた曲です。歌詞もとっても素直な感じで誰のこころにも直接訴えてくるものがあり、ニコニコ動画の名曲の1つと言ってよいと私は思っています。

これにもストーリー性のあるきれいな絵を付けた作品があります。

さてお次は、皆さんよくご存じのこの歌です。

「千の風になって」

歌い手さんは、自らを「雌豚閣下」と名乗っておられます。随分変わったハンドルですね(笑)。彼女のしっとりとした美しい声が私は好きです。

「歌ってみた」カテゴリーの最後は帰国子女の方が本場仕込みの英語で歌っていらっしゃるこの曲にします。アメリカでは有名な賛美歌だそうです。

「姉が歌ってみた 2nd(曲名:Awesomw God)」

とにかく素晴らしい歌声にびっくりです。最初の何げない軽く口ずさむような歌い出しから徐々に迫力の増していく歌唱力にぐんぐんと引き込まれてしまいました。

●「料理」カテゴリー

カテゴリーが22もあるのですから、半年くらいでは全部網羅などとんでもない状態です。料理に特別の興味があるわけでもないのですが、やはりランダムに見ているとぜひ紹介したいものがあったりします。

次の動画は料理動画ですが、この動画が第1回で第5回まで続いています。パターン化されたおもしろさがありますので、できれば第5回までぜひ次々にご覧になることをお薦めします。投稿主は「ウシ」さんという妙齢のお嬢さんですが、非常にユニークな料理動画です(笑)。

「ウシの料理『コロッケ』」

いやあ、これは実に癒されますね。バックグラウンドに流れる軽快な音楽はなんとウシさん自身が作曲したものをご自分で演奏されたとのこと。オリジナリティあふれるウシさんの世界をたっぷり味わえる動画です。

ついでに、ウシさんが「踊ってみた」カテゴリーに出張(?)した動画も付け加えておきます。”かわいらしい”という言葉がそのままあてはまる出来映えで、ニコ動視聴者にもかなりの人気を博しているようです。

「キラッ☆ 踊ってみたモー」

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以上がこの半年間で私が感心したり感動したりした動画群です。このほかにも、もちろん政治、科学などいろいろな分野の動画がありますし、また日々新しい動画がアップされるものですからとてもすべてに目を通すことなどできません。そういう中で、私の場合はこういう動画を見て楽しんでいるという一例として紹介させてもらったしだいです。

音楽や踊りでは圧倒的にアニメを素材にしたものが多く、それ以外のものはあまりアップされないように見えます。というのも、投稿者としてはせっかくアップしたのであれば、いろいろな人に見てもらいたいでしょうから、そのためにはやはりニコニコ動画に集まる人たちの関心に沿ったものじゃないとなかなか視聴してもらえないという事情があるのでしょう。

しかし、将来はアニメ以外の分野の音楽や踊りも出てくるでしょうし、一方では今や日本にとって国際競争力トップと自認できるアニメ文化のさらなる醸成の場としても大いに貢献することになるのではないか、などと感じたりもしています。

最後に、ニコニコ動画でよく使われるアニメ・ソングなどのいいところだけを取りだしてつくられたらしい「ニコニコ動画流星群」という歌のオーケストラ・バージョンの動画を紹介してこの稿を終わりたいと思います。商業ベースではなく、各人各様好き勝手な思いに従ってこのような活動ができる日本という国のありがたさに深い感動を覚えた作品でした(ひと昔前の日本、あるいは現代の貧困にあえぐアジア・アフリカ諸国などではおよそ考えられない姿です)。演奏はニコニコ動画を愛する有志諸兄によるニコニコ・オーケストラです。

「ホールで『流星群』を演奏してみた」

                                              以上

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2008年10月 6日 (月)

『カンナさん、大成功です』

2006年の韓国映画『カンナさん、大成功です』をDVDで観ました。久しぶりの韓国映画です。

3年前に『猟奇的な彼女』を観てから映画好きとなってこのブログを立ち上げたのですが、その後韓国映画もちょっと疲れが見えてきたようで、あまりおもしろいと感じられる映画が少なくなってしまいました。チョン・ジヒョンの『デイジー』やソン・イェジンの『私の頭の中の消しゴム』などは、”鳴り物入り”という感じで日本でも紹介されましたが両方ともいま一つでした。そんなことから、最近はむしろめきめきおもしろくなってきた日本映画ばかり専ら観てきたような気がします。

さて、この映画は久しぶりにおもしろいと感じた韓国映画でした。監督はキム・ヨンファ、主演のカンナ(=ジェニー)にキム・アジュン、相手役のイケメン辣腕プロデューサーのサンジュン役にチュ・ジンモという配役です。

原作は日本の同名の漫画だそうですが、わたしは知りません。また原作マンガには太っていた当時の絵はなかったそうですから、原作のアイデアを基にして新たに創作した映画という面があるようです。

ストーリーだけ、簡単に振り返っておきます。

主人公はカンナ(キム・アジュン)という女性。体重95キロ、身長169センチという巨漢の彼女は美声で歌が上手だったため、歌が下手でも美貌とスタイル抜群のアミの影の歌手として生活していた。そしてアミのコンサートをプロデュースするサンジュン(チュ・ジンモ)にひそかに恋をしている。

そんなある日、ひょんなことから彼にまったく相手にされていないことを知って自暴自棄となり自殺を図る。しかし死にきれず、ついに死んでもいいからと全身美容整形という手段にうって出ることになった。そして手術は成功した。

その後、改めて別の名前(ジェニー)でアミの影の歌手になるべくオーディションを受け見事に合格。しかし、今度は美貌でスタイルもよいカンナは、アミの影になるのでなく主役としてデビューすることとなった。それは順調に進んで行ったかに見えたが……。

大事なソロ・コンサートを前にして彼女の昔の姿を密告する者があらわれ、彼女は風前のともしび状態となってしまった。さあ、彼女はどうするのか?

とまあ、こんな感じのストーリーでしょうか。

それはともかく全編コメディタッチでクスクス笑いを誘うところが多いのですが、ラストでは思わず涙を誘わずにはいられないようなシーンもあり、バランスがとれていてなかなかよく仕上げられていたように思います。

まず、この映画の特徴としては”一定の主張がなされているものではない”点をとくに挙げておきたいと思います。

どういうことか。

通常この種の映画では肥満のからだを全身整形しても、それは虚飾の姿であるのだからやはりそういうことは生き方としてどうだろうか、とかあるいはやはり女は美人でなければ生きにくいのだから、整形なども含めて何でもOKだ、などのような二者択一的な主張がどちらかに偏ってされがちなテーマではないでしょうか。しかし、この映画にはその辺の問題にはまったく立ち入っておりません。まあ、観る人がどう捉えるか、それは皆さんにお任せします、といったスタンスであり、それが程よい距離感を保ってくれています。

ところで、私は「この映画はずるい!」と思いました。

1つはキム・アジュンの二役であり、そしてもう1つが彼女の歌声の美しさです。

肥満体の役も特殊メイクによってキム・アジュンが演じ、また歌も吹き替え無しだったということを知ったとき、最初は信じられない思いでした。それを知ってから再度観たのですが、もうこれはキム・アジュンの演技・美貌・美声にうっとりしっぱなしでした。いや、さらに突っ込んで正直に言えぱ彼女の歌声にただただしびれてしまったのです。

映画冒頭の歌、Janet Jackson の「Miss You Much」にしても、その次に出てくる The CAUSE (Fugees+α?)による「stand by me」にしても、それぞれ歌っているのはたったワンフレーズだけにもかかわらず、その美しい声の響きに魅せられてしまいました。そして、いよいよオーディションのシーン。ここで初めてフルで歌いこんでくれたyumiの「星」ではもううっとりです。

これが吹き替えなしだなんて――ずるい!!! とまあ、こういうことです(笑)。

もちろん、最後のメインに熱唱した「マリア」では本物の歌手としても遜色ないほどでしたし、涙で自分の正体を訴えるシーンも、本来なら”こんな事アリエネー”話であることなどわかりきっていながら、それ以上にストーリーをそのまま素直に受け入れさせるだけの力が感じられたものです。

演技の話をするのを忘れてしまいましたが、それほど彼女の歌声に魅入られてしまったということです。もっとも、DVDにおまけで付いていた特典ディスクをみたら、音楽担当のプロデューサがかなり頑張ったみたいで彼女の美声もさることながら、かなり音響技術でカバーしたところもあったみたいな言い方をしていました。ですから、いわゆるチャンピオン・データだけでつくり込んだのかもしれません。いや、でもそれにしても大したものだと思います。

さて、演技。

韓国の主役を張るくらいの女優って本当にみんなうまい人が多いなぁ、と思います。このキム・アジュンも新人だったらしいですが、見事にこの役をこなしていました。とくに肥満特殊メイクでの演技がよかったです。

やせ薬を売りつける目的で近づいてきた男との別れ話のシーンや、「stand by me」を歌っているとき、その歌詞にかこつけてプロデューサーのチュ・ジンモに対する求愛のしぐさをしたら、たまたまそれをジンモに見とどめられて思わず恥じらう姿など実に印象的でした。

そしてこのときのジンモの何とも言えない反応もよかった――一瞬、彼女をかわいいと感じたんだけど、でも……。というような表情と演技には感心しました。そして、歌の細かい指示を受けながら、カンナが手に持っていた飲料ボトルを彼に勝手に呑まれ、でも思わず嬉しくなってそのボトルを大切そうにするしぐさなど、いわゆる羞じらいを可愛らしく演じられる女優さんですね。

もちろん、チュ・ジンモが最後のほうに見せた演技――会長の前でグラスを叩いて血を滲ませるシーンなどもなかなか迫力がありましたし、キム・アジュンのスカートを半分破り捨てるところなど結構いろいろと凝った演出がされていて飽きさせません。

それにしても、女性は美しいかどうかで生活というか、人生がまるっきり変わってしまうんだなぁ、ということを今さらながら改めて考えさせられる映画でしたね。

おまけディスクにあったキム・アジュンのインタビューで知ったのですが、映画の制作の順番は映画の順番どおりだったそうです。つまり、最初特殊メイクの肥満カンナさんのシーンを撮ってから、次に全身整形後の美女カンナさんのシーンを撮ったんだそうです。そのときにキム・アジュンはこんな経験をしたと語っています。

彼女が最初肥満メイクをしていたとき撮影現場のみならず近場の街まで歩いたりしてみたそうです。すると街ではいろいろな人がじっと自分を見てくるとのこと(どうも口ぶりからすると、あんなに太っちゃって可哀想に、という目だったようです)。また、現場ではスタッフの皆んなからは「カンナちゃん」とか言って親しげに声をかけられたり冗談を言い合ったりしていたのに、整形後の撮影になったら突然スタッフがみんなよそよそしい感じになってしまったそうです(まあ、近寄りがたい美女になったということでしょう)。

特殊メイクだけの日々を少し過ごしただけでも、こういう経験をしたそうですから、やはり女性にとっての美醜の問題は大問題ということがよくわかるエピソードでした。そういう問題を正面から映し出し、しかも整形という現代的テーマをも併せて提起しながら、その善悪・是非についてはまったく関与せず楽しい娯楽作品に仕上げてみせたところに、この監督の深い力量がうかがえる作品だったように思います。

いずれにしても、この映画はまさにキム・アジュンあっての映画でしたね。彼女にしかできない役でしたし、また彼女でなければこれだけヒットしなかったでしょう。それは、ストーリーのおもしろさもさることながら、やはりこの映画に使われた歌の選曲のよさ、そして彼女の歌唱力にあったことは間違いありません。ですから、選曲をしたキム・ヨンファ監督、選曲・編曲をした音楽監督のイ・ ジェハクの手腕も大いに讃えられてしかるべきでしょう。

これはキム・アジュンの出世作にして彼女の最高のプロモーション・映画となりましたね。

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