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2008年10月 6日 (月)

『カンナさん、大成功です』

2006年の韓国映画『カンナさん、大成功です』をDVDで観ました。久しぶりの韓国映画です。

3年前に『猟奇的な彼女』を観てから映画好きとなってこのブログを立ち上げたのですが、その後韓国映画もちょっと疲れが見えてきたようで、あまりおもしろいと感じられる映画が少なくなってしまいました。チョン・ジヒョンの『デイジー』やソン・イェジンの『私の頭の中の消しゴム』などは、”鳴り物入り”という感じで日本でも紹介されましたが両方ともいま一つでした。そんなことから、最近はむしろめきめきおもしろくなってきた日本映画ばかり専ら観てきたような気がします。

さて、この映画は久しぶりにおもしろいと感じた韓国映画でした。監督はキム・ヨンファ、主演のカンナ(=ジェニー)にキム・アジュン、相手役のイケメン辣腕プロデューサーのサンジュン役にチュ・ジンモという配役です。

原作は日本の同名の漫画だそうですが、わたしは知りません。また原作マンガには太っていた当時の絵はなかったそうですから、原作のアイデアを基にして新たに創作した映画という面があるようです。

ストーリーだけ、簡単に振り返っておきます。

主人公はカンナ(キム・アジュン)という女性。体重95キロ、身長169センチという巨漢の彼女は美声で歌が上手だったため、歌が下手でも美貌とスタイル抜群のアミの影の歌手として生活していた。そしてアミのコンサートをプロデュースするサンジュン(チュ・ジンモ)にひそかに恋をしている。

そんなある日、ひょんなことから彼にまったく相手にされていないことを知って自暴自棄となり自殺を図る。しかし死にきれず、ついに死んでもいいからと全身美容整形という手段にうって出ることになった。そして手術は成功した。

その後、改めて別の名前(ジェニー)でアミの影の歌手になるべくオーディションを受け見事に合格。しかし、今度は美貌でスタイルもよいカンナは、アミの影になるのでなく主役としてデビューすることとなった。それは順調に進んで行ったかに見えたが……。

大事なソロ・コンサートを前にして彼女の昔の姿を密告する者があらわれ、彼女は風前のともしび状態となってしまった。さあ、彼女はどうするのか?

とまあ、こんな感じのストーリーでしょうか。

それはともかく全編コメディタッチでクスクス笑いを誘うところが多いのですが、ラストでは思わず涙を誘わずにはいられないようなシーンもあり、バランスがとれていてなかなかよく仕上げられていたように思います。

まず、この映画の特徴としては”一定の主張がなされているものではない”点をとくに挙げておきたいと思います。

どういうことか。

通常この種の映画では肥満のからだを全身整形しても、それは虚飾の姿であるのだからやはりそういうことは生き方としてどうだろうか、とかあるいはやはり女は美人でなければ生きにくいのだから、整形なども含めて何でもOKだ、などのような二者択一的な主張がどちらかに偏ってされがちなテーマではないでしょうか。しかし、この映画にはその辺の問題にはまったく立ち入っておりません。まあ、観る人がどう捉えるか、それは皆さんにお任せします、といったスタンスであり、それが程よい距離感を保ってくれています。

ところで、私は「この映画はずるい!」と思いました。

1つはキム・アジュンの二役であり、そしてもう1つが彼女の歌声の美しさです。

肥満体の役も特殊メイクによってキム・アジュンが演じ、また歌も吹き替え無しだったということを知ったとき、最初は信じられない思いでした。それを知ってから再度観たのですが、もうこれはキム・アジュンの演技・美貌・美声にうっとりしっぱなしでした。いや、さらに突っ込んで正直に言えぱ彼女の歌声にただただしびれてしまったのです。

映画冒頭の歌、Janet Jackson の「Miss You Much」にしても、その次に出てくる The CAUSE (Fugees+α?)による「stand by me」にしても、それぞれ歌っているのはたったワンフレーズだけにもかかわらず、その美しい声の響きに魅せられてしまいました。そして、いよいよオーディションのシーン。ここで初めてフルで歌いこんでくれたyumiの「星」ではもううっとりです。

これが吹き替えなしだなんて――ずるい!!! とまあ、こういうことです(笑)。

もちろん、最後のメインに熱唱した「マリア」では本物の歌手としても遜色ないほどでしたし、涙で自分の正体を訴えるシーンも、本来なら”こんな事アリエネー”話であることなどわかりきっていながら、それ以上にストーリーをそのまま素直に受け入れさせるだけの力が感じられたものです。

演技の話をするのを忘れてしまいましたが、それほど彼女の歌声に魅入られてしまったということです。もっとも、DVDにおまけで付いていた特典ディスクをみたら、音楽担当のプロデューサがかなり頑張ったみたいで彼女の美声もさることながら、かなり音響技術でカバーしたところもあったみたいな言い方をしていました。ですから、いわゆるチャンピオン・データだけでつくり込んだのかもしれません。いや、でもそれにしても大したものだと思います。

さて、演技。

韓国の主役を張るくらいの女優って本当にみんなうまい人が多いなぁ、と思います。このキム・アジュンも新人だったらしいですが、見事にこの役をこなしていました。とくに肥満特殊メイクでの演技がよかったです。

やせ薬を売りつける目的で近づいてきた男との別れ話のシーンや、「stand by me」を歌っているとき、その歌詞にかこつけてプロデューサーのチュ・ジンモに対する求愛のしぐさをしたら、たまたまそれをジンモに見とどめられて思わず恥じらう姿など実に印象的でした。

そしてこのときのジンモの何とも言えない反応もよかった――一瞬、彼女をかわいいと感じたんだけど、でも……。というような表情と演技には感心しました。そして、歌の細かい指示を受けながら、カンナが手に持っていた飲料ボトルを彼に勝手に呑まれ、でも思わず嬉しくなってそのボトルを大切そうにするしぐさなど、いわゆる羞じらいを可愛らしく演じられる女優さんですね。

もちろん、チュ・ジンモが最後のほうに見せた演技――会長の前でグラスを叩いて血を滲ませるシーンなどもなかなか迫力がありましたし、キム・アジュンのスカートを半分破り捨てるところなど結構いろいろと凝った演出がされていて飽きさせません。

それにしても、女性は美しいかどうかで生活というか、人生がまるっきり変わってしまうんだなぁ、ということを今さらながら改めて考えさせられる映画でしたね。

おまけディスクにあったキム・アジュンのインタビューで知ったのですが、映画の制作の順番は映画の順番どおりだったそうです。つまり、最初特殊メイクの肥満カンナさんのシーンを撮ってから、次に全身整形後の美女カンナさんのシーンを撮ったんだそうです。そのときにキム・アジュンはこんな経験をしたと語っています。

彼女が最初肥満メイクをしていたとき撮影現場のみならず近場の街まで歩いたりしてみたそうです。すると街ではいろいろな人がじっと自分を見てくるとのこと(どうも口ぶりからすると、あんなに太っちゃって可哀想に、という目だったようです)。また、現場ではスタッフの皆んなからは「カンナちゃん」とか言って親しげに声をかけられたり冗談を言い合ったりしていたのに、整形後の撮影になったら突然スタッフがみんなよそよそしい感じになってしまったそうです(まあ、近寄りがたい美女になったということでしょう)。

特殊メイクだけの日々を少し過ごしただけでも、こういう経験をしたそうですから、やはり女性にとっての美醜の問題は大問題ということがよくわかるエピソードでした。そういう問題を正面から映し出し、しかも整形という現代的テーマをも併せて提起しながら、その善悪・是非についてはまったく関与せず楽しい娯楽作品に仕上げてみせたところに、この監督の深い力量がうかがえる作品だったように思います。

いずれにしても、この映画はまさにキム・アジュンあっての映画でしたね。彼女にしかできない役でしたし、また彼女でなければこれだけヒットしなかったでしょう。それは、ストーリーのおもしろさもさることながら、やはりこの映画に使われた歌の選曲のよさ、そして彼女の歌唱力にあったことは間違いありません。ですから、選曲をしたキム・ヨンファ監督、選曲・編曲をした音楽監督のイ・ ジェハクの手腕も大いに讃えられてしかるべきでしょう。

これはキム・アジュンの出世作にして彼女の最高のプロモーション・映画となりましたね。

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コメント

はじめまして、こんにちは!

詳しい感想を、書いてらっしゃるんですね。とっても参考になりました。note「カンナさん、大成功です」は”面白い~!”と、ほかの方からもきいていたので、近く観ようとおもいました。
また寄らせてもらいますネ。

投稿: ぴす | 2008年10月 6日 (月) 23:57

ぴすさん、コメントありがとうございました。

ちょっと覗かせてもらいましたが、「美人分析」のブログを開設されているんですね。そういうテーマのあること自体、やはり女性にとっての美の問題は深くて大きいのでしょうね。

この映画は音楽もノリがいいし、とにかく楽しめますよ。ぜひご覧になってみてください。

投稿: たるぼっと | 2008年10月 7日 (火) 16:58

これは私が見た韓国映画の中でTOP3に入る出来でした。
太っているときからほんとにいじらしくてかわいかったですね。
コンサートのケンチャナコールではケンチャナって深いな、と思いました。
日本だったらがんばれ、っていうところですよね。

投稿: たこ麗子 | 2009年2月11日 (水) 00:48

わたしもこの映画は本当に久々に観てよかったと感じた韓国映画の一つでした。

私が5つ星を付けたのを今観てみたら、このカンナさんを入れて7つありました。『猟奇的な彼女』『イルマーレ』『ラブ・ストーリー(原題:クラシック)』『八月のクリスマス』『酔画仙』『彼女を信じないでください』そして『カンナさん、大成功です』となっています。ただし、私にとってのトップは「八月のクリスマス」ですね。

麗子さんのあとの2つはなんでしょう。知りたいところですね。

とにかくいじらしさの演技には参りました。そしてコミカルにも演じられ、そのくせやたら妖艶なところもあったりして娯楽性もかなり高かったように感じました。

しかし、やはり私にとっては選曲の素晴らしさ、歌声の魅力という点は何度褒めても褒めつくしきれないところです。

投稿: たるぼっと | 2009年2月12日 (木) 18:52

『猟奇的な彼女』と『箪笥』です。

これから見てみたい映画は
『ラブ・ストーリー』
『八月のクリスマス』
『酔画仙』
『彼女を信じないでください』
になりましたよ。

投稿: たこ麗子 | 2009年2月12日 (木) 22:19

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