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2017年6月 6日 (火)

京都橘吹奏楽DMPの魅力の源泉はいったい何だろう? その1

TV番組「笑ってこらえて」(2011年&2012年)

前回のエントリーでも述べておいたのですが、京都橘のダンシング&マーチング・パフォーマンス(以下、DMPと略す)は単に踊っているのに上手とか見ても聴いても楽しいということ以上に、人を鼓舞したり、笑顔にさせてくれる力があります。これは決して私だけが感じているのでなく、youtube上の各京都橘動画につく視聴者コメントにも多数確認できます。

全国の高校吹奏楽部のマーチングには本当に技術的にも芸術的にも素晴らしい高校がたくさんあり、正直言って京都橘以上の高校もあるでしょう。しかし、なぜか橘のような癒やし効果、思わず笑顔になってしまう効果、鼓舞された気分になる効果は、やはり京都橘が頭一つ抜きんでていると言ってよいでしょう。そのうえ一度聞くとそれで十分とはならず、もう一度、二度、さらに三度と見て聴いてしまいます。そういう魅力の源泉が何か、それが京都橘に対する私の興味の中心です。

アメリカのディズニーランドでのパフォーマンスを知って、より詳しく知りたいと思っているところに、かつて所ジョージさんの「笑ってこらえて」という番組で、京都橘吹部が紹介されたことがあるのを知りました。この番組の録画をじっくり見てみると、京都橘を知るうえで基本的なことが非常にコンパクトにまとめられています。さすがに大手キー局の手になる番組と感心させられます。

TV番組『笑って、こらえて!』で紹介された京都橘高校吹奏楽部の主な紹介内容
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学校(女子校として)創立:1902(明治35)年 [ソース:京都橘高等学校のホームページ]

吹奏楽部創部:1961(昭和36)年
モットー:「よそで経験できないものを体験させる」(創部当時からマーチングに力を入れる)

2005年 当時3年生ドラム担当のS・K氏提案によりマーチングにダンスを取り入れる。振
     り付けも生徒自身で考案。
2007年 マーチング全国大会 銀賞
2008年 マーチング全国大会 金賞
2009年 マーチング全国大会 金賞
2010年 三出制度により全国大会出場禁止

この番組に出るきっかけとなったのは、番組からのアンケートに顧問の田中宏幸先生が記述した以下の回答がテレビ局の興味を惹いたからのようです。

【TV局からの質問】吹奏楽部中に、マーチング初心者の方はいますか? いる場合、その中で苦労するのはどのような事でしょう?

■(田中先生)半分以上がマーチング初心者です。本校独自のマーチング基礎練習により「体で覚える」形でさせますが、それよりも「本番に取り組むことにより力をつける」形での方が、個々の上達には結びついていると思います。
『スポーツ根性もの』的な、大変激しい練習のため、涙と汗に耐えなければならず、大変苦しい思いをしています。

【TV局からの質問】マーチングで他校にはない、独自の練習法などはありますか?

■(田中先生)本人たちはあまり感じていないと思いますが、×××駆け足、もしくは全力疾走で行動する日本一激しい楽器運び(重い打楽器をかついで全力で走る)

[×=読み取れず]
(以上、2011年日本テレビ「笑ってこらえて」より)

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以上が番組で開示された京都橘の吹奏楽部の基本情報です。

まず学校自体はもともと女子校だったこと。そしてマーチングは吹奏楽部創立以来、「よそで経験できないものを体験させる」をモットーにしてきたこと。これは後に重要な鍵の一つになりそうです。

ついでに、オレンジの悪魔で有名になったオレンジのマーチング衣裳はミニスカートですが、それゆえか"いたずらに向こう受けを狙った品の無い衣裳"との誹りを受けることも、たまにあるようです。しかし実は最近のデザインでなく、1975年製であることは知っておいてよいことでしょう。[ソース:徳島遠征「音楽の絆」顧問・田中宏幸先生のMC→https://youtu.be/myGrB483NNo

1967年にミニスカートで一世を風靡したツイッギー(Twiggy)が来日し、1970年代初頭くらいからぼつぼつ田舎の大学キャンパスにもミニスカートを穿く女子大生が現れたのを知っている私からすると、ようやくファッションの一つとして一般にも定着した75年デザインとしてはさもありなん、と頷けるものがあります(Wikipediaによると1974年ころには、第一次ミニスカートブームがいったん終息したとあります)。JKという俗語さえなかったもう40年以上も前のことですから、今の高校生から見れば伝統衣裳ということになります。ましてや、向こう受けを狙ったものなどでは決してないことがわかります。

そして番組では、2005年のダンス導入のきっかけを紹介していました。Sさんという当時のドラム担当生徒がしばらく全国大会になかなか出られず低迷していた状態から抜けるための策として、ダンスを取り入れてマーチングすることを提案したというのです。しかも、すべて振り付けは生徒自身がやったというのですから、すごいものです。普通に考えれば、マーチング・コーチがいるように、ダンスの振り付けも誰かダンス専門講師に依頼するのが当然のように思えるからです。どうやら、ここら辺にも彼等のパフォーマンスの魅力の秘密があるのかもしれません。

Sさんは『Burn The Floor』というDVDをきっかけにダンスを取り入れる発想を得たとしていますが、振り付けが似ているとしても、楽器を演奏しながらダンスをするというのは、それだけで十分にオリジナリティがあるのではないでしょうか。そして2008年、2009年に全国大会金賞に輝き、京都橘の名声を不動のものにしたと、番組ではまとめられていました。

ところで、番組からのアンケートに応える田中先生の回答も見てみましょう。

本番に取り組むことにより力をつける」は、確かに見ている私たちにも容易に理解できます。例えば、毎年6月のブラスエキスポは新一年生が最初に参加する大会本番ですが、これが2015年や2016年のように10月末の大江山酒呑童子祭りの頃になると、その音もステップも振りも見違えるほどの完成度を見せてくれるのですから。

それに、マーチング大会での京都府大会から全国大会までのわずかな期間での、その成長ぶりには眼を見はるものがあります。とにかく本番が次の本番のためのいちばんの練習になっているという田中先生のコメントは毎年の実感に裏付けられたものでしょう。まあ、この年齢の時期にしかまずあり得ない精神的にも身体的にも抜群の成長期と重なっているからこそのことと理解できます。。

また、次のアンケートに対する回答にある「楽器運びに全力疾走」など、普段の行動から体力をつけるための訓練をしていることで、これは番組でも見られましたが毎日のことですから、本当につらい訓練であることがわかります。

昨年の暮れに、PALSから出た2007年から2016年までの京都橘のマーチング演奏のブルーレイを購入して見ましたが、360度撮影の特典動画でも体育館の床に目印を貼る作業をしている生徒たちがやはり全力疾走しているのを見て、テレビ番組のとおりの状態で身体を鍛えているんだなぁ、と今更ながら感心させられました。

さあ、そして京都橘ファンなら誰でも知っているようですが、この番組ではホラー映画と抹茶好きなA・Hさんのドラムメジャーぶりが大評判になったようです。彼女のリーダーとしての素晴らしさは「叱る」ことのできる数少ない高校生だったことでしょう。社会人になった人なら、そして部下を持った人なら誰でも経験することですが、後輩や部下を叱ることはなかなか簡単ではありません。萎縮させてもいけない、かといって甘やかすわけにもいかない。そういった中で、Aドラムメジャーの叱り方には感心させられました。

2011年合宿で、通称「グルグル」の練習で彼女は全員の前でこう叱ります。

「環境悪いかもしれんけど、最悪やで! なんやねん、今のSing! なんやねん、はじめのランスルー! 本番1回やねんで。今までやってきたことを1回で出さなアカンねん!!その1回に対する気持ち、無さ過ぎやで! もっと集中してやって! 1回目から。」

ちょっとテレビを見ていた大人も自分に向けて言われているんじゃないか、と一瞬ビクッとした人もいたのではないでしょうか(笑)。社会人になれば、事実上、Aドラムメジャーの叱咤した趣旨は、つねに会社や所属組織の上司あるいは顧客からの要請そのものといえるからです。ですから、このシーンを撮ったり編集している番組スタッフのほうが、よほどビクッとしたのではないかなぁ、連日、視聴率で結果を残さなければならないのですから、と思わず笑っちゃいました。そういう意味では、部活を通して社会人としての基礎訓練をしているのと変わらない側面もありそうです。

その後テレビ・スタッフに問われるまま、Aドラムメジャーはこのときの心中を語ります。
「もったいないなぁと思って…。だって、やればできるのに…。」

この発言をみれば、彼女はメンバー全員は必ずできるはず、との深い信頼が根底にあったことがわかります。だからあれほど容赦ない叱り方ができたんですね。彼女の叱り方は、ほかの場面でもわかりますが、努力してもできそうもないことに触れるのでなく、努力すればできるはずの--上記の場面では「集中力」の点に注目して注意しています。そういう点で実に見事な叱り方でした。

この後、全国大会まで行きますが、最終結果は目標の金賞でなく銀賞でした。悔し涙を初めてみんなの前で流すAドラムメジャーにホロリとした視聴者も多かったようです。彼女の天性の素質や家庭環境もあったにしろ、こういう優れた人材が集まり存分に活躍させる、あるいはこういう「人」を生み出す京都橘高校には注目せざるを得ません。そのほかにも外部者に対する挨拶と礼儀、そして何よりハキハキした応答、おまけに声も大きい。これらすべてがとてつもない魅力を生み出す原動力の一つひとつになっているように感じます。

それにしても、この番組での真骨頂は彼・彼女等の猛烈な練習風景でしょう。とりわけグルグルのすさまじさにはびっくりでした。一見、軽々と踊りながら吹いているように見えても、やはりこれぐらい繰り返し、繰り返しやって、それでもピタリと揃えることがかくも難しい、それが視聴者にも十分に伝わるものでした。踊りながら吹く楽器の位置・角度、そのときのステップを踏む脚やつま先の角度までというのですから、想像以上のものがありました。

だからなのでしょうか、『Sing Sing Sing 』での、あの「キャーッ」という一斉の叫び声。

聴く人によっては雑音としか聞こえないとか、音楽を台無しにする残念な叫声と酷評する人たちもいるようです。

しかし、私はあの叫び声は、必然パフォーマンスとみます。上記したように一人ひとりが楽譜通りに吹くことやゴメハ(5mを8歩で歩くこと)は当たり前として--これだけでも本当はたいへんなはずですが--、跳んだりはねたりのステップの正確さ、そのときの楽器をもつ手の位置、楽器の方向と角度、腕や脚の位置や角度そしてつま先の下ろし方まで一つの音を出す際に注意しなければならない、数え切れないほどいくつものことに注意して神経がぴりついた状態から、いったん解放されるための統制されたカオス(笑)として理解できるからです。こういう瞬間がないと神経がもたないのでしょう。それくらいの緊張状態にあるからこその必然的なパフォーマンスなのではなかろうか、と思うのです。

その意味では、最初にこれを考案した生徒たちはものすごい才能をもっていたと感心するしかありません。緊張から解放されてほっとしている声にも聞こえ、思わずこちらもほっとしながら声まで出して笑ってしまうことさえあります。この「キャーッ」があるからこそ最終パフォーマンスに向けていったんリセットでき、あの見事な演奏・演技で終えられるのでしょう。

ついでに言えば、『Sing Sing Sing 』演奏の最後を、あの「ヘイッ!」で終わらせる編曲者はだれなのでしょう? 田中先生でしょうか。盛り上げて、盛り上げて、「ヘイッ!」で終わるというのは、本当によくできた演出・編曲です。

以上、日本テレビの『笑って、こらえて!』(2011~2012年)の録画を見ての感想ですが、ここまでで京都橘吹部の特徴をまとめてみます。

(1)元々が女子校であったためか、吹奏楽部員は女子がほとんどである。
(2)1975年創部して、衣裳は華やかなオレンジ色のミニスカートである。
(3)昔からマーチングには力を入れていて、全国大会金賞の常連であった。
(4)2000年ころから全国大会に出られる機会が少なくなる。
(5)2005年の大会で初めてダンシング&マーチング・パフォーマンスを披露したが全国大会には行けず。
(6)2008・2009年にマーチング全国大会金賞を獲得、『Sing Sing Sing 』は京都橘の十八番となり、その名を轟かせた。
(7)踊りの振り付けは、すべて部員が考案。徹底的な繰り返しの練習により、伝統を維持。
(8)吹きながら踊り行進する体力をつけるため、一年生時にはとくにパーカッションなど重い楽器を走りながら運搬する。
(9)振り付けは、2005年当時の先輩たちからの遺産。毎年、先輩たちによるかなりのスパルタ指導がある。
(10)マーチングの練習はドラムメジャーが主導的に実施し、顧問の先生やコーチは補足的な位置にあるのが特徴。

ざっとこんなところでしょうか。おおざっぱな京都橘吹奏楽部の流れをつかんでみましたが、まだまだこれだけでは、その魅力の源泉にとても行き着きそうもありません。

そこで次に、京都橘を取材して書かれたという『響け! ユーフォニアム 立華高校編』を読み進めてみます。(続く)

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